ボーイング787初飛行!

 

2009年12月16日

 

 

ついに初飛行!!

(写真はボーイング社ページから借用)

 

0.BOEING社

 

ご存知、太平洋戦争で大活躍(日本からすれば国土を焦土にした憎っくき爆撃機)したB-29を設計・製造した会社である。英語標記では「The Boeing Company」となる。この定冠詞「The」は旧情報、つまりは既知のものを表すことが基本的役割である。日本語ではその訳に相当する「その」という語がしばしば代名詞に混ぜられてしまうので、解りにくい単語として有名だ。いや、訳がどうこう言う前に、旧情報、新情報という概念こそ持っているが、省略大好きな民族故に忘れ去られているという方が適切だろう。因みに新情報と旧情報であるが、よく以下のように説明される。

 

俺の会社は食堂に自販機があるんだけど、そいつ(自販機)がこわれちまってさぁ・・・。

 

最初の「自販機」は何も無い状況下で出現した言葉なので、「新情報」である。そして二番目に出てくる自販機(実際は代名詞として言い換えられてている)は既に会社にあるものと解っているので「旧情報」というわけだ。

 

ところで、稲川淳二の怪談がどうして面白いかご存知だろうか。当方が学生時代に先輩もおっしゃっていたのだが、「主題が一番最後にあり、かつその主題は、その話の中での一番大きな「新情報」だからだ。つまり、こうだ。

 

夏の暑い日になかなか寝つかれなくて寝返りを打っていたが、そのうちに喉が渇いてきた。それにしても何か胸騒ぎがするのでためらっていたのだが、どうにも我慢できなくなって寝室から1階への階段をソロソロと降りていった。ギシ、ギシと一段ずつ・・・(この間延々と家の周りや自分の心理描写が続く)。そうして冷蔵庫にたどり着いて戸を開けようとした時!!、こんな1cmくらいの隙間に幽霊がいた!!!「エーーー!!!(会場一同大声を上げる)」

 

まあだいたいこんなところなんだろうが、最後に「幅1cmの幽霊」という主題であり、また新情報であるものが出現するということなんだ。

 

話しが相当逸れたが、この定冠詞には唯一無二のものを指すという役目もある。太陽や月は「the sun」、「the moon」と慣用的に書いている。実は「The Boeing Company」の場合もこれに当るものと考えられる。つまり、「この世で唯一無二の最もすぐれたボーイングという会社」ってことになるわけだ。日本人から見ると背中がかゆくなってまうがや。

 

2.787って何よ

 

このボーイングという会社は最初に707というジェット旅客機を開発して以来、727、737と新規開発のジェット旅客機に7で挟まれた数字を1ずつ大きくした名前を付けてきた。尚、717については1997年に合併吸収したマクダネル・ダグラス社が開発中のMD-95を引き継いで1999年に就航している。この数字が飛ばされた理由は諸説あるが、軍用機用に一時使用されていたことが原因のようだ。

 

787型機は707を含めると、9番目に開発されたジェット旅客機ということになる。こいつは21世紀になって初めての新規開発旅客機であることは当然なのだが、その中味は今までのものとは少し違う。

 

一般に「飛行機の材料は何だ?」と聞かれたら「そりゃアルミか何かだろ」という答えが一般的だ。ところが、ボーイング社のページhttp://www.boeing.com/によると、787型機についてはCFRP(カーボン繊維で補強されたプラスティック)の採用が重量を基に計算すると50%ということだ。このCFRPはF1のモノコックボデーに採用されているアレである。重量的にはアルミの10分の1以下、強度も高級な処理をしたアルミ合金と比較しても2倍以上ある。787型機の基本型、787-8では最大離陸重量が220トンなので、そのうち100トン分はCFRPであることになる。上記ページの素材使用図を見ると、そのほとんどはこの材料で構成されていることがわかる。そりゃそうだ。強度が2倍で重量は10分の1なのだから、単純に考えても部品数の80%を置き換えできることになるのだから(実際は金属でないといけない部分もあるので、そうはいかない)。

 

こういった軽量化、さらには今まではエンジンの動力に頼っていた部分を電気駆動とすることにより、従来の同等規模(ボーイングでいくと767型級)の機体よりも燃料消費を20%程削減できる=遠くまで飛ぶことができることになるそうだ。その距離や8,000海里=15,000km弱ということだから、東南アジアからアメリカ東海岸も給油しないで飛行できる。現用の767-300ER機では6,000海里=11,000kmということだから、東海岸はきつい。もちろんより大型の747-400ER機(ジャンボ機の重量増加型)ならこのくらいの航続距離は有している。

 

これは何を意味するか。結局のところ今まではジャンボ級の飛行機でないと給油が必要だった路線でも、より小さい飛行機でもノン・ストップ飛行が可能になる。ということは、需要があまりない路線も開設できるし、あるいはジャンボ級で少ない便数しか運行できない路線でも、便数を増やすことが可能だ。また、でかい飛行機で大きな国際空港で行き、そこから小さい飛行機に乗り換えていた目的地でも、乗り換えなしで行くことも可能だ。ちなみに前者の旅客方式をハブtoスポーク式というが、後者はポイントtoポイント式という。これについては、先ごろA380という巨大機を就航させたエアバス社が前者を支持、ボーイング社は後者をこれからの旅客の形と提唱している。当方個人としては、乗り換え無しで行ける方が良いように思う。

 

3.そうは問屋が卸さない

 

こういった思想の下、日本の全日本空輸が派生型の787-3と基本型787-8を合わせて50機発注したことにより、787プロジェクトが始まった。さらに、これに続いて、日本航空他60社近くが注文を出し、おりからの原油価格高騰も手伝って、一時は1,000機に迫る勢いで受注していた。747型機ことジャンボ機は40年で1,500機程である。また、777機は10年で同数くらいだ。まだ飛んでもいない飛行機にこれほどの注文が出るということは異例中の異例と言えよう。

 

余談であるが、飛行機の場合は先に各航空会社がどんな飛行機を欲しているか調査し、計画をまとめて提示する。それに賛同した航空会社が発注することにより計画は実行に移される(ロケットなどの打ち上げを意味するローンチという言葉を用いる)。因みにANAのように最初に購入契約をした顧客をローンチカスタマ-と言い、最高で定価の半額程の割引を受けることができるということだ。しかし、もしも計画がうまくいかなかったり、計画した性能が出ない場合の危険性を考えると、割引が妥当なのかはわからない。事実、マクダネル・ダグラス社のMD-11型機は計画通りの性能が出せないばかりか、度々事故を起こしている。2009年3月に成田で着陸に失敗したのも、このMD-11型貨物機である。

 

さて、こうして2004年4月にANAの50機確定発注しローンチした787プロジェクト、2007年第三四半期初飛行、2008年第二四半期初号機納入の予定であったが、5回もの計画変更があり、2年以上の遅れが出ている。これにより、ANAは2008年の北京オリンピックに787型機を飛ばす予定であったが、その計画は脆くも崩れ去った。これぞまさにローンチカスタマーが割引を受けられる所以であろう。さらに、様々な部品の重量増で、生産初期型機は航続距離も7,000海里弱になるということに。これについては、エンジン性能やらの更なる向上をお願いし、機体設計を煮詰めて何とかするとのことだが・・・。

 

さらに、この5回目の計画変更は2009年6月末、初飛行の前に行われた。強度テストで主翼付け根の強度が1割以上足りないことが発覚したためだ。おりしもこの頃はパリ・エアショー(自動車のモーターショウのようなもの)が開催されており、「明日にでも飛べるよ」と豪語していた直後の変更発表であった。これでANA他カタールエアなども大いに怒り狂ったことは言うまでもない。一時は賠償金の支払いなどもあり、本当に787は飛べるのかという不安も広がった。

 

いったいなぜこのような事態に陥ったのであろうか。一般的見解としては、部品の外注化を進めすぎた結果だということらしい。え、部品なんて外注してサブアセンブリー(半組み立て)の形で納入させることがメーカーの常識じゃあないのか?、と連想された方。おそらく自動車関連の職業についておいでだろう。ところが、飛行機製造会社、特にボーイング社は基本的に胴体や翼といった主要部品は内製として、ドアや操舵面などの小物は外注という立場をとっている。767や777型機の製造・開発に三菱重工、川崎重工、富士重工なんかが参加しているとはいえ、基本的には完全下請け扱いというわけだ。

 

この制度はボーイングにとっては利益の上がるものであったが、旅客機製造会社のもう一つの雄、エアバス社は少し状況が違う。こちらは組み立て工場はフランスにあるが、ドイツやイタリアなんかから半完成品を集めて組み立てている。そのおかげかどうかは知らないが、競争力がついて、今やボーイングとほぼ互角に渡り合っている。それならばと787も同様の方式を採用した。つまり各設計・製造は世界中の部品メーカーに委託、責任を持たせ、それらをボーイングのエバレット工場で組み立てるということにした。さらに、それら部品は747LCF(Large Cargo Freighter)

で運ばれてくる。今まで船でやっていたことを貨物機で行うというわけだ。これにより、必要な時に必要な分の部品を組み立て工場に納入させ、一気に組み上げるということが可能になるというわけだ。

 

後方の変な飛行機が747LCF

(写真はボーイング社ページから借用)

 

とても合理的な仕組みであるが、そうは問屋が卸さなかった。試作1号機を組み立てる際に集まってきた部品が、ボーイングの要求する基準を満たしていないものがたくさんあったのだ。いくら技術の進歩した現代工業界とはいえ、やはり設計基準や要求を聞き、実際に図面を引くのは人間だ、必要な情報がきっちりと伝わっていなかったのだろう。ボーイング社はこの後、自ら採用したこの外注方式に苦しむこととなる。

 

さらに先にも述べたが、この787型機は業界初のフル炭素樹脂製の機体だ。何もかもが初めてのことで、問題が多々発生して、設計も度々やり直しとなったらしい。その度に外注に指示を出すが、なかなか要求通りに仕上がらない。さらにストライキなんかも発生して、初飛行は伸び伸びとなっていたわけだ。因みに完成披露会(プレミアロールアウト)は2007年の7月8日、英語式に標記すると「July 8, 2007」だ。Julyは7月だから787というわけだ。

 

4.さらに追い討ち

 

上記の演出も虚しく、様々な問題を山積みにして、対策も後手後手になってしまった787計画。さらには昨年2008年のリーマンショックで経済状況は急速に悪化した。「本当に787は飛べるのか」、そんな不安も広がり始めて、オーストラリアのカンタス航空のように一部発注を取り消すところも出始めた。そうした中、やっと要求通りの構成部品が揃い、各種テストが開始された。そして2009年6月には初飛行できるということになったのだが、またまた問題が発生。主翼付け根の部分にある補強材が剥れてしまうという強度不足が発覚した。この試験は翼を上方に引っ張りあげるものだが、その力たるや旅客運行中不意に受ける、予想される最大の力に数倍の余裕を持たせた係数をかけ、かつその150%というた値だ。これに合格しないとFAAというアメリカ航空局の型式認証が下りないわけだが、ボーイングとしては飛ばそうと思えば飛ばせるたと思われる。しかし、いままでこうして問題を後回しにしてきたツケが開発の遅れをもたらしたので、初飛行は延期となってしまった。

 

この間、再び787は本当に完成するのかという不安がよぎったが、地上走行試験などは続けられた。また、どういうわけか知らないが、ANAはさらに5機を追加発注した。ひょっとするとボーイングからの補償金代わりだろうか。

 

さて、不具合解決に向けてボーイングでは主翼付け根の再設計にとりかかった。これは柔軟性を持たせるためか知らないが、補強材内部を外側に向けて半円形に削り、34個のリベットを追加して胴体に取り付けるというものだ。この改修が11月に完了し、再び試験開始。今月に入り、高速走行試験で前輪を浮かすところまで漕ぎ着けた。さらに走行試験などと並行して、主翼付け根の再設計、補強も完了し、2年以上の遅れで2009年12月15日に初飛行となった次第である(日本では16日だった)。 

 

4.今後

 

ボーイング社はこの後、6機の機体を用いて様々な試験飛行をし、2010年の第4四半期に初号機が納入される予定だが、今までの経緯からだけでなく、予定は未定である。当方は3年遅れの2011年第2四半期にANAが一号機を受領できれば御の字と思っている。試験飛行中に様々な問題が露呈してくることは明らかだからね。もっとも、最近はしっかりとコンピュータ上でシュミレーションしているので、それほどの問題は出ないとの見方もある。事実1995年就航の777型機は初飛行から1年未満で就航している。さて、どうなるか、まだまだ目が離せませんね。

 

2009年12月

管理人暇にまかせて

 

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