バンコク郊外を降下中
ゴチャゴチャしていると「搭乗完了」の機内アナウンスが発せられ、ドアが閉められたようだ。時刻はほぼ定刻の10時55分である。「ガタン」という振動と共に、機体は後方に動き出す。この間、左のエンジンに続いて右のエンジンが始動する。そうだ、いよいよ俺はバカンスでガーナに向けて出発するんだ。今日は何回そう思ったことかわからないが、ちょっと泣けてくる。結構仕事が大変だったからなぁ。
機は南に機首を向けて、移動を開始する。外は雨模様となっており、薄暗い。あれ、10時30分発のフィンエア、ヘルシンキ行きである同じA350を追い越して、滑走路に進入する。前述のように薄暗いので、ライトが煌々と点灯している。今日も一旦停止はしないで、そのままローリング・テイクオフになるようだ。ということは、顔を前に向けて加速Gに耐えられるようにしないと。
そう思っていると、エンジンが唸りをあげて離陸滑走が始まる。おおおーー、A350は大型機ながら、なかなか鋭い加速をするなぁ。因みに、搭載されているエンジンは、ロールス・ロイズ製「TRENT XWB」という、B787に使用されている「TRENT 1000」の派生型だ。これは当方の個人的見解だが、ボーイング機よりも、エアバス機の方が離陸滑走時の加速が鋭い気がする。777や787よりも、A350の方が鋭いし、A320の方がB737よりもずっと鋭い(気がする)。
いつものように、心の中で「V1・・・V2・VR」と唱えていると、貨物ターミナルの前辺りでふわりと地面を離れ、ガタガタしていた機体はピタリと安定する。グングンググーンと高度を上げていくが、ギア・アップはいつだったのか、わからなかった。
すぐに雲に入って再びガタガタと揺れ出すが、機首上げ角を保って上昇を続けていく。翼も見えない程に雲が厚いので、雲の上に出た時には既に機首は200°辺りを向いている。いつ旋回したのだろうか。そのまま紀伊半島を南に下り、鳥羽の先で右旋回で機首は270°ぐらいとなる。外からは積乱雲が見えるので、地上では雨が降っていることだろう。仕事の時に雨が降ると絶望的な気持ちとなるが、今日はその上にいるので気分が上々である(仕事の仲間は大変な思いをしていることだろう)。
いやいや、今日からバカンスなんだから、余計な事は考えなくてもよろしい。窓から外を見るも、相変わらずの雲海である。そう思っていると、いつの間にか水平飛行に移っている。そして、おやつの柿の種が配られる。飲み物はもちろん、オレンジジュースである。これは、旅では野菜やくだものを食べる機会が減るので、ビタミンを補うことを目的としているからだ。
まずはおやつを
上空39,000 ftで食べる柿の種はなぜかおいしい。ジュースも飲んで一息ついていると、九州の沖辺りで昼食の時間となる。「日本式のカツどんか、タイ式のチキンか」と聞かれるので、もちろん「タイ式」を選択する。通路側の人はカツどんを選択したようだ。
普段は貧しいものしか食べていない当方にとって、こいつはご馳走だ。鶏肉ゴロゴロじゃあないですか。タイ式というが、中華風だな。あと、日本線らしくそばもついている。水も「KISO」の水だ。これは、2年前に搭乗した「キャセイパシフィック」航空でも同じものが出された。そりゃそうだよ、機内食は「名古屋エアケータリング」が製造しているからね。
うん、鶏肉は照り焼き風の甘めの味付けで、大きさもあって食べ応えがある。パンもご飯もあるので、炭水化物大好きの当方の食欲を満たしてくれる。そばもイケますよ。タイ航空は食事の量が多めと言う評判だが、その通りだ。やっぱり、42,000 ftの食事は最高だ。
昼飯は豪華だ
機内食を食べ終わると、急に眠気に襲われる。昨夜は寝付けなかったし、朝も早かったのでここで昼寝するとしよう。飛行ルート地図では、ちょうど沖縄本島を過ぎた所のようだ。
いつの間にか寝てしまっていて、喉が渇いて目が覚める。最新式のA350型は前述のように、焼き固めた炭素繊維樹脂でできているから、金属のような湿気による腐食の心配がない。そこで、少し加湿しているようだが、それでもかなり乾燥している。
残しておいたジュースを含んで、またうたた寝ZZZ。1時間ぐらいは寝ていただろうか、目が覚めるとインドシナ半島にさしかかる、ちょうどミャンマーの上空だ。ここは熱帯性雨林で覆われて、びっしりと緑色だ。しかし、タイに入るとかなり開発が進んでいて、各所に街が見えるようになる。川が大きく蛇行しているところが、熱帯雨林だったということを示しているようだ。
インドシナ半島上空にて
お、おやつにアイスクリームが提供される。こいつはありがたい。やはり、42,000 ftの上空で食べるアイスクリームは格別だ。この夏もクソ暑い炎天下で仕事をしていたのだから、こんな非日常でアイスクリームが食べられるなんて、夢のようだ。頑張った甲斐があったということだろうか。
この間も機は500ノット近い速度で進んでいるので、どんどんとバンコクが近くなってくる。眼下には水田と思われる細長く区切られた地面が見え、タイの農村という趣だ。それにしても、こんなに開発が進んでしまって、地球の環境に影響がないのだろうかと心配になってしまう。
水田の広がるタイの農村
ああ、そうだ。入国時に提出するカードを記入しなくてはならない。まあ、内容は一般的なものなので、そんなに困ることはない。え、タイでの住所?ちょっと立ち寄るだけなので、そんなものは無いよ。空欄だとマズイかな?
それはそうと、今年も梅雨の末期には洪水が起きたし、強烈な台風が何回も襲来しているし、昨年の夏はメチャクチャ暑かったし・・・。環境破壊は、少なからず影響しているのではないだろうか。
機は高度を下げ始めているので、そろそろバンコクの「スワンナブーム国際空港」も近いようだ。因みに、自称旅行家である実の兄貴は「ドムアン空港じゃないんだ」と驚いていた。そう、スワンナブームは2006年に開港した新空港であり、兄貴が放浪の旅をしていた1990年代後半には、まだ存在していなかったのだ。
そんなことを思っていると、田んぼの中に空港が現れる。結構海に近い所にある空港で、空母のように巨大だ。関係無いが、中学の時に「人間空母」とあだ名された女がいたっけ。しかも、その姉さんと兄貴は良い仲だったとは、遠い遠い昔のお話だ。誰だ?そんな酷いあだ名をつけたのは。今ならば、間違いなくハラスメントとして問題になることだろう、
空港をいったん見送り、海上に出る。そして、大きく右旋回をして、滑走路に正対する。多くの工場、高速道路、結構な大都会的な景色を見ながら、R/W01Rに着陸する。おおー、メチャクチャドリフトしてるじゃあないですか。パイロットは真剣にペダルを踏んで、方向舵を動かしていることだろう。
あれれ、ターミナルビルは向こうなのに、機は整備地区と思われる格納庫の方へ進んでいく。そして、整備中?スクラップ直前?と思われる、B777機の横で停止する。
スワンナブーム国際空港に到着
機が停止して、ドアが開く。乗客は足早に降機しようと準備しているが、当方はここタイで10時間近くの乗継ぎ時間がある。何も焦ることはないので、座ったまま窓の外に見える機体を見て楽しむ。それにしても、やはり、ここは整備地区のようだ。旅客ターミナルは遥か向こうだし、整備中と思われる777-300ERも見える。
だいぶ人が降りていったので、重い腰を上げるとしよう。CAさん達に見送られて降機するが、機体のドアはとても頑丈そうな金具がいくつも取り付けてある。話が逸れるが、今日の飛行では高度43,000 ft.=12,000 mを飛んできた。ここでは気圧は地上の1/4程度しかないそうである。しかし、機内はおおよそ0.8~0.9気圧ぐらいに保たれているので、機体には外向きの力が加わる。その圧たるや、8.7 psi= 1kg/㎠以上にもなるそうだ。つまり、ドア全体としては6トン程度の力がかかっているのだ。
金具のいかつさがそれを表していると感じつつ、機外に出る。うぁあ、暑いし湿度も高い。いかにも熱帯の国、タイである。そうか、6時間も飛行機に乗って南下してきたんだ。これにより、一気に旅情が盛り上がってくる。
前述のように、ここはターミナルからかなり離れた場所なので、空港名物の巨大バス「COBUS」が待っている。ああ、俺は今、休暇でタイの「スワンナブーム国際空港」にいるのか。そう考えるだけで、気分は上々だ。
バスに乗り込むと、エアコンが効いていて涼しい。数分してバスが発車するのだが、途中、スクラップ?にされる777が見える。また、今や旅客型としては貴重になりつつあるB747-400も駐機してある。あ、昨年利用したオーストリア航空のB777-200ERも見えるぞ。機体番号は・・・。残念、昨年乗った機体ではありませんでした。ビーマン・バングラディシュ航空のB737-800もいるぞ。その向こうは、ロイヤルエア・モロッロのB787だ。タイは世界的なリゾート地だから、世界中の航空会社が乗り入れているのだな。
スクラップ直前か?
安定の747-400
ビーマン バングラディシュ航空の737-800
5分程移動して、旅客ターミナルの入り口に到着する。うぁあ、やっぱり暑い、早く建物に入ろう。さて、通常ならば預け入れの荷物を拾うところだが、今回はガーナで受け取ることにしているので、その必要はない。さっさと先へ進もう。ええと、入国のパスポートコントロールはどこかな。いや、その前に夜に乗るエチオピア航空のゲートを確認しておかないと、バタバタしても困るし。
この空港は案内表示がしっかりとしているので、とても分かりやすい。また、案内係のカウンターもあちこちに設けられているので、必要ならばたずねればよいだけのことだ。
「ARRIVAL」と書かれた看板に従って進んでいくと、入国のブースが見えてくる。が、その手前には長蛇の列ができている。こいつは時間がかかりそうだなぁと最後尾につくも、ロシア人の女達が割り込んでくる。おいおい、そりゃないだろう。しかし、当帆はロシア語の心得はないし、相手も英語は通じないだろう。そういうわけで、先に行かせてしまったわけだが、これは良くない。どいういう理由にせよ、きちんと主張したいところだ。ああ、俺はやっぱり日本人なんだなぁ。
到着ゲートはこちら
列に並ぶこと1時間、やっと順番が回ってきそうな所までやってくる。ここで、役人の補佐官らしき人がやってきて「入国カードあらかじめチェックする」ということだ。「国籍とパスポート番号、タイでの住所が抜けているよ」と指摘される。ああ、凡ミス。すいません。でも、ただの乗継なので、住所は記入できない。それについては「乗り継ぎと書いておけ」ということだった。
所定の場所に必要事項を書き足して、いよいよブース前にやってくる。いかにも「お役人」という小太りの女性審査官が座っており、挨拶をしてパスポートとカードを提出する。「どこへ行くのか?」とぶしつけに聞かれるので「ガーナです」と答える。「何でガーナにいくのか?」と矢継ぎ早に質問されて「いや、タダの旅行です」と返答する。
すると、しげしげとパスポートの中身をチェックし始める。どうやら、変な国のスタンプがたくさん押してあることが気になっているようだ。「セネガル」とか「ボスニア」とか、審査官もあまり見たことがないのだろうか?いや、そんなことより、そいういう所に行っている、当方が一番怪しいのだろう。
何とか問題なく?スタンプをもらって、無事タイに入国。よっしゃ、これで入国した国は9か国目だ。ガーナに入国すれば、10か国と2ケタになるぜ。
第1日目 その3へ続く