2008年3月15日
純正(左)とK&N(右)エアクリーナーの比較
昨年夏に勘違いから、エアクリーナーをK&N製に交換してみた。一度洗浄もしている。しかし、どうもしっくりこないので、また純正品は2000円ちょっとと値段も安いので、元に戻してみた。概ね4000kmを走ったわけだが、その差とどうしてその差が生まれたかを検証してみよう。
K&N製はご存知の通り、不織布を網で挟み、波状に仕上げ、専用オイルを塗布した湿式のエアクリーナーだ。対して純正品は布のような紙(紙のような布?)にオイルを染み込ませ、を波状にして、エアクリーナーボックス側に金網を取り付けたビスカス(粘着)式のものだ。前者はかなり目が粗く、オイルをたくさん塗布することにより、ゴミをろ過している。また、波の数も少ない(=空気の通りが純正よりもよい)。一方純正品はというと、かなりろ過性能が高い(=空気の通りがK&Nよりも悪い)と思われる。一番上の写真のように、太陽に透かしてみるとその差は一目瞭然だ。
じゃあ、やっぱり空気をたくさん吸うK&Nの方が良かったんでしょ?と言われそうだが、まあ待って欲しい。
まずはK&N製装着時の変化をおさらいしよう。先に掲載したレポートでは以下のように記載した。
「なんかアイドリングでシフトアップができるぞ。極低速のトルクが少し向上しているようだ。」
「通常走行時にアクセル開度が少ないように感ずる。特に発進加速時は開けすぎる傾向がある。また、結果として半クラッチの時間が30%位は短くなったと思われる。」
これらはつまり、空気の吸入量が多くなったので、混合気がエンジンにスムースに流れ、結果極低速のトルクがわずなに向上。さらに、通常走行時にはスロットル開度が小さくて済むようになったとういうことだ。しかし、ネガな部分として、水温が高めに推移する、ゴミを多く吸っているかもしれない、という懸念もあった。また、後日燃費が1km/Lから2km/L悪くなったことが確認された。
そして今回、純正に戻したところ、
空気の吸入音が小さくなった。
開け始めがマイルドになり、乗りやすく、またドンツキ感が無くなった。
水温がK&N装着時よりも、低い点で安定するようになった。
アクセル開度はあまり変わらないように感じた。
燃費向上
どっちが良いか。K&Nは洗浄ができ、何回も使えるし、低速トルクも少しだけ向上する。しかし、細かい砂埃をきちんとろ過しているかに大きな疑念が残るし、スロットルレスポンスが過敏だ。時には砂が舞う道路や滑りやすい路面に遭遇することもあるので、管理人の好みで、公道で乗るには純正の方が良いという結論になった。
それではなぜエアクリーナー交換で上記1のような事態が起こるかを下の模式図で簡単に検証してみよう。
TDMのエンジンはコンピュータ制御の電子燃料噴射装置を採用している。このコンピュータは吸入空気量、排気温度、スロットル開度、エンジン回転などのセンサーからの入力で燃料噴量を決定している。今回、純正品を基準に考えると、K&N製は多くの空気を透過させることができるエアクリーナーなので、空気量が増えた分、多く燃料を噴射しているものと思う。しかし、補正量がやや少なく、全体的に空燃比が薄い(リーン)となってしまっていたようだ。また、要求されるアクセルの開度は多少小さくなったから、燃料噴射の補正量が少ないという要因も追加しておこう。
さらに、吸気から排気までで考えてみると、動く空気(混合気)の量全体が多くなったと考えられる。しかし、スロットルは交換していないので、同じ大きさだ。だから流速が早まり(?)、スロットルに対する過敏反応が誘発(=時間あたりの通過混合気量が増えた)されたようだ。この際にスロットルが開け過ぎの状態が起こり、燃料を余計に使ってしまっていたので、燃費の若干の悪化に至ったと推測される。
エアクリーナーからの吸入量と燃料噴射量の模式図
カッコ内は量をあらわしている。
市場の評価では(口コミや雑誌の記載)ではK&Nが断然有利と言われているじゃないか。管理人のいうことはデタラメだ、というあなた、ちょっときいて欲しい。一口に高性能と言っても、レース等の限られた場所での高性能と、公道一般における高性能では求められているものが違うのだ。簡単に言うと、レースでは点の高性能、公道では帯の高性能という言葉が当てはまるものと思う。
つまり、サーキット等限られた場所では、その場だけ凌げれば良い訳だ。しかし公道ではどんな状況が待っているか全く解らない。ここではある程度の幅を持たせる必要があるわけだ。最近のレーサーはものすごい乗りやすいと言われているが、公道用車両に比べたらやはり比ではないだろうと思う。
たとえばブレーキを考えてみよう。サーキットではある程度一定の、また非常に高い摩擦係数を持つ路面である。よって、タイヤのグリップがある程度一定で、非常に高いと期待できる。また、常にブレーキディスクを熱い状態にしておくこともできるので、少しレバーを握るだけで効力が高まるブレーキマスターシリンダー、パッドを使用できるのである。対して、公道では路面は常に変化しており、凸凹あり、浮き砂ありである。だからサーキットで用いるような部品を使用するといつ転ぶかとびくびくしていないといけない。よって、コントロール幅の大きい、レーバーを握るに従って徐々に効力の高まるマスターシリンダー、パッドが必要なのである。
そういう認識が余り浸透していないせいか、社外品でかためたバイクをよく目にする。改造費がベース車の何倍、何十万円とお金を使ったことを自慢している輩の話を耳にすることがあるが、いつも思うことは「そんなものに乗って楽しいのか」ということだ。確かに、金持ちだ、とか金をたくさん使った、見栄えが良いなど走行している以外の場面では楽しいかもしれないが、走行中に苦痛ということは、バイクに乗ることが嫌に感じるということではなかろうか。もっとも自分の演出のためにバイクを所有しているという目的ならばそれも良い話だが、管理人は楽しく乗るためにバイクを所有しているので、上記のような疑問を持つだけだ。まさに価値観は十人十色ということで、この論をしめくくることとしよう。