2014年 夏の北海道ツーリング

 

2014年 8月22日~31日

 

鈴木食堂のご主人と

5日目(8月27日)その1

 

1.超早起き

 

昨夜は疲れており、メモをつけて航法やルート確認をした後はやることもなかったので、さっさと寝てしまった。おかげで今日は日の出に間に合うように、朝4時に起きることができた。管理人は目覚ましが無くても大体決まった時間に起床できるし、起こしてもらうということはほとんど無い。

 

さて、昨日から日の出日の出と騒いでいるが、その理由を説明しておこう。ご存知の通り、太陽は東から上り西に沈む。つまり、地球は西から東に向かって自転していると定義されている。ということは、東経・西経0度、または日付変更線を基点として考えると、東の方ほど日の出時間が早いということだ。そして管理人は現在、北海道の最東端に泊まっている。そう、日本で一番ではないが、少なくとも日本本土では一番早い日の出を見る人かもしれないのだ。因みに、日本で一番東にある場所は南鳥島で、東経153度58分50秒に位置する。ここ納沙布岬は東経145度48分59秒なので、約8度も東にある。また、仮に北方四島が返還されたとしても、その一番東にあたる択捉島のカモイワッカ岬は東経145度45分14秒なので、日本最東端は南鳥島であることには変わりない。

 

そんなロマン溢れるこの地に宿泊したことも何かの縁だろう、ここで日の出を見ない手はない。ところで、今日の日の出時刻であるが、宿のご主人によると4時30分ぐらいとのことだ。すぐに普段の走行用装備を着て表に出る。時刻は4時10分過ぎだ。

 

現在の気温は10℃プラスアルファ、というところだろううか。また、昨日から10ノット程度の風が吹いているし、それに伴い波も勢いよく押し寄せているので、いかにも北の海、という様相であり、それだけでも寒さを感じる。眠い目を擦りつつ東の空を見ながら歩いていくと、まだぼんやりと赤い程度であり、ご来光までには少々時間がありそうだ。また道路に面した途中の広場では、既に漁師さんが昆布を干している。当然ながら、地元の漁師さんはほぼ毎日最東端の日の出を見ているわけで、管理人を「物好きだねぇ」という表情で見ては仕事をこなしている。

 

「漁師さんから見たら当方のような観光客は滑稽だろう」そう思いながら納沙布岬灯台に来ると、既に数人の人がカメラを準備しているではないか。何だ、変態は俺だけじゃあないよ。もちろん他の皆さんは旅行者であり、冬と同じ装備をしているが、一人だけ半袖に短パンで来ている人がいる。この方は5分も経たない内に「寒い寒い」と車に帰っていった。

 

しばらく東の空を眺めていたら、ある部分を中心にみるみる赤みが強くなってきた。おお、あそこから太陽が上るのか。ちょっと雲が出ているが、日の出は見られそうだ。「そろそろだな」と気分が盛り上がってくる。周りの人達もだんだんとテンションが上がってきたようで、どことなくソワソワしている。まだか、まだかと待っていると、

 

「ピカー」

 

っと輝く太陽の頭が見えた。これが最東端のご来光かぁ。ただの日の出であることには違いないが、ここは東経145度48分58秒の納沙布岬、北海道最東端の場所だ。そう考えるとこのご来光がただのご来光ではないように思えるから不思議だ。

 

秋勇留島から上る朝日

(左は水晶島、貝殻島)

 

歯舞諸島の島々を背景に、太陽はゆっくりと昇ってくる。これは上記のように地球が自転していることを示しており、その事を視覚を通して実感しているわけだ。

 

何枚も写真を撮りつつ、昇りゆく太陽を見守る。日の出を見たことも久しぶりだし、それが北海道最東端ともなればテンションが上がらないわけがない。しかし、15分もすると光が目に眩しくなってきた。ここはガリレオの例を教訓として、適当なところで太陽の観察を止めことにする。そして、岬の周辺の風景も撮影しつつ、散歩して海を眺める。

 

日の出直後の駐車場

 

今日は風が吹いているので霧が発生しなかったので、日の出を見ることができた。今年の北海道ツーリングはツイているな。あまり運の良くない管理人だが、捨てたもんでもないらしい。少々自惚れつつ部屋に戻り、今日の走行に備えてもう一度布団に入って二度寝する。

 

2.出発だ

 

再び6時に起きて、カロリーメイトをかじってゆっくりする。備え付けのブラウン管テレビで今日の天気予報を確認すると、引き続きオホーツク海高気圧が明瞭で、気温は低めのようだ。しかし、昨日よりは高くなり、この後は徐々に平年並みに戻ると予想されている。もちろん雨は降らないので、カッパを装着しないで済むし、天気を気にしないでキャンプをできる。この「天気を気にしないで楽な気持ちで走行できる」ということは、北海道ツーリングでは何よりも嬉しいものだ。

 

鼻歌交じりにマシンを点検して、チェーンオイルを塗布しておく。その後道まで押して行って、荷物を積載すれば出発の準備が完了だ。さて、宿主である鈴木食堂のおじさんは、既に店を開けて仕事をしている。挨拶をして「今日は日の出が見えました」と報告をすると、「5日ぶりに見えたね」と返答してくれた。ということは、既にその時刻には起床していて、仕事に取り掛かろうとしていたのだろうか。この北海道最東端に住んでいて、毎日早寝早起きで過ごす日々、健康的な生活だ。

 

鈴木食堂 ライダーハウス前にて

 

宿主の仕事の合間をみて、記念撮影をお願いする。女将さんは化粧をしていないからと、遠慮されていた。本当はご一緒したかったが、無理強いはできないので冒頭の写真のようになった。

 

今日も海からの風は冷たいが、日差しは温かい。天候は予報通りに推移するだろう。北海道で丸々一日晴れの予報が出されることは少ないが、上陸2日目からはそれが続いている。全くもって嬉しいことだ。北の大地に感謝しつつ、オーナーと女将さんにお礼を述べてから7時に出発する。

 

まずは道道35号線の根室半島北回り航路を選択し、秋晴れの空を見ながら38ノットで走行する。さて、根室半島は基本的には湿原か草原であるが、牧場として利用されている場所も多々ある。北海道全般に言えることだが、牧場には牛もいるが、馬もたくさん放牧されている。この根室半島も例外ではない。この牧歌的な風景と澄んだ秋の空気、いやあ、今年も北海道に来られてよかった。こういうことがあるから、仕事もできるというものだ。

 

根室半島北回りルートの道道35号線にて

 

道道35号線を終点まで走り、根室市街地を抜けて、昨日通った310号線、142号線と戻っていき、これから向かう落石岬を遠くに見て走行する。途中、とほ宿「カジカの宿」前を通過すると、バイクが数台止まっていて、出発の準備をしていた。宿泊していたのは新CBR250の若いライダーだった。

 

落石の市街地に入り、岬を示す看板に従って進んでいく。道の悪い坂道を上るとダート路になり、その先には行き止まりのゲートが見えた。落石岬へはバイクは乗り入れが禁止されているので、マシンを置いて往復で40分程度の道のりを歩いていくことになる。それにしても、カラスがカーカーとやかましい。荷物にいたずらされないか心配だが、ここまで来たから岬へ行きたい。

 

ここからは歩きです

 

カラスの動向が気になるので、時々後ろを振り返りつつ草地を歩き始める。もちろん、ここに居るのは管理人と動物たちだけだ。このような手間のかかる観光地を訪れようとする人はあまりいないようで、管理人はこの時間、この場所では精神的に全く自由と言える。こういう開放感はたまらなく気分が良い。常々「なぜ毎年北海道に来たくなるのか」と自分でも不思議に思っているのだが、このような時間を謳歌できるからではないか、という気がする。逆に言えば、管理人は自分本位な人間だということだろう。

 

そんなことを考えていたら、旧落石送信所が見えてきた。ここは1908年に開設された施設で、北太平洋の交通の要所である根室付近を航行する船舶、航空機と交信し、道しるべとなっていたそうだ。そして、1939年にはかの有名なリンドバーグの北太平洋無着陸横断を支援し、成功の影の立役者となった。また、そのニュースを世界中に打電し、知らせたという、何とも航空ファンの想像を掻き立てる場所だ。

 

落石送信所跡にて

 

そんな歴史的な場所を楽しみつつ、湿地帯を渡るために、岬へと向かう木道を歩いていく。んー、ライディングシューズは靴底が硬めなので、足裏が痛い。

 

ここからが本番

 

鬱蒼とした森の中を10分程度歩くと、この落石岬周辺が南限という植物を見ることができる。このグァテマラ、いや「サカイツツジ」だが、樺太などに多く生えていて春に花を咲かせる。ただ、冷涼な気候でなければ生きていくことができなく、ここ落石岬より北では樺太まで見ることができないので、飛び地で生息していることになる。これは、氷河期には北海道全域に自生していたが、気温が上昇するに当たり南から死滅していったこと、そして落石周辺は気候が厳しいが故に生き残ることができたということだ。因みに案内板によると5月下旬に花が咲くそうなので、今のところ見ることは難しいだろう。

 

サカイツツジの案内板

 

さらに森を歩いていくと、ようやく出口が見えてくる。木道を降りて再び草の道を歩くと、今まで木々に遮られていた海風を感じる。そして何もない草原に、太陽を背にして凛と立つ灯台が見える。その光景はとても印象的である。今は気候の良い時期だが、猛吹雪の日も、台風の日も、雨の日もこうして文句を言わずにじっと耐えているのだろう。一方管理人はと言えば、ああでもない、こうでもないと毎日ブツブツ言っている。少しはこの灯台を見習いたいものだ。また、仮にこんな女がいるとしたら、一度会ってみたいとも思う。そんなことを思う管理人は、全くもって自分本位な人間だ。

 

灯台の下まで歩いていくと、秋の北海道で最後の力を振り絞って咲いている草花が出迎えてくれる。とても小さいこれらの花だが、大きな力を感じる。このツーリングでは何回かこういうことがあったが、ここ落石岬では厳しい気候に耐えていると想像されるので、さらに草花に同情してしまう。灯台同様に、こういう強さを身につけて、少しはマシな大人になりたいものだ。

 

落石岬へ到着

 

すっきり快晴というわけにはいかないが、気持ちの良い天気である。秋の初秋の北海道を存分に感じることができる場所だ。しばらく灯台付近をウロウロしてみる。別に何があるというわけでもないのだが、この雰囲気がなんとも心に響く。何かと気ぜわしい日々を送っていると、こういう何も無い場所で目的なく時間を過ごしたくなるものだ。

 

風に吹かれつつ、41歳以降の人生について考えてみるが、どうせこのまま時間が過ぎていき、いつの間にか50歳になってしまうのだろう。「やってみたがダメだった」ならまだよいが、「やっておけばよかったぁ」という後悔はもうたくさんだ。そのためには今という時間にやれることをやるのみだ。果たして今の俺にはそれができているのだろうか、何とも疑問だがこれ以上頑張るのも大変だ。所詮俺はこんなもんだろう。

 

落石岬灯台

 

問答をしつつ景色を楽しんだ後「また来るよ」落石岬灯台に別れを告げて、元来た木道を戻っていく。相変わらず木道は足の裏に痛い程刺激を与えてくれる。敷いている木に直径の細いものを使えばよいのだろうが、それでは強度が出ないのだろう。仕方なくそのまま歩いていくと、途中で何かの虫がピョンピョン跳ねているところを見るが、よく見てみると色が違う。まるで玉虫のようだ。

 

変わったコウロギ?

 

少々辛い思いをして木道を終わりまで歩いて、再び草の道を行く。「落石って良い所だなぁ」と心穏やかに思いつつ送信所の辺りまで戻って来る。やっとマシンが遠くに見えきたよ。看板の所要時間は伊達ではないな、と駐車場があるゲートに帰ってきた。やれやれと水分を補給していると、屋根でカラスがカーカーと騒いでいる。嫌な予感がしてマシンと荷物を点検すると、

 

銀マットがほじくられて穴が開いている(怒)

 

当の本人(本カラス)は「俺はしらねぇよ」という顔をしてカーカー鳴いている。ますます腹が立ってくるではないか。いや、だいたいカラスの野郎には怒りを覚えることが多い。先月の梅雨明け頃に会社横にあるツバメの巣を襲撃しやがったこともその一つだ。丁度ヒナが飛行訓練を開始した頃で「巣立ちも近いな」とヒナの成長を喜んでいたのだが、ある日カラスの野郎がやってきて、ヒナを1羽さらっていきやがって。まあ、カラスにも赤ちゃんがいるわけだから仕方ないことだし、人間だって子羊とか食って「ジンギスカンは旨い」とか言っているのだから、非難はできない。ヒナだけに。

 

しかし、銀マットは我々ツーリングライダーの生命線だ、これがなければテント泊は成り立たない。まあ、冷静になって考えると、直径1.5cm程度の穴を開けられただけなので使用には実害は無い、と怒りを沈める。

 

3.オホーツク海を北上

 

気を取り直して、落石岬を後にする。道路横の空き地では漁師さんが昆布を干しているので、今日は良い天気が続くのだろう。安心してダートを抜けて、道道1123号線を少し戻り、142号線へ乗り換えて磁方位270°で走行を続ける。ここは昨日、鹿の飛び出しに怯えた区間だが、この時間なら問題はなかろう。

 

別当賀駅を通過し、初田牛駅のTの字を直進して道道1127号線へスイッチする。因みに、このTの字では、オイルと思われる液体が大量に漏れた跡があったのだが、幸いにも昨日、今日と早めに気が付いたので、問題はなかった。

 

何があるかわからないので、余裕を持って走行していこう。5km程度湿原の道を行くと厚床の街で国道44号線とぶつかり、セイコマを発見した。ヤットコはプライヤーだし、ヒョットコはオカメの相棒だ。朝から1時間近く歩いたので、腹が減った。ここでライダーの補給をしていこう。

 

さて、前の日にも記述したが、北海道に来てからは「こんにゃくゼリー」を1日1回は食べることにしている。おかげで腹も快調なので、2010年に宗谷岬近辺で調子が悪くなって、痛さで冷や汗をかきつつ、トイレを1時間近く占拠するということもはないだろう。今日は気になった、おさつあんぱんも購入した。これはセイコーマートの季節限定発売商品らしく、旬のさつまいもを使ったものらしい。この北海道地区の代表的コンビニであるセイコーマートは、こういう季節ものには力を入れており、ツーリングライダーが好みそうなものを取り揃えている。

 

補給の品々

 

 

腹が満たされたので、この先の飛行計画を検討する。このまま奥行臼まで北上し、別海方面へ行くか、海沿いを走り野付半島を行くか。後者はいつも途中で挫折するので、今日こそは最後まで行ってみたい。ということで飛行計画承認を受けて出発する。

 

まずは国道44号線を少し西へ走り、厚床(あっとこ)市街の中心で国道243号線に乗り換えて磁方位を360°に切り替える。ここは今から5年前、ネズミ取りにやられた地だ。詳細は2009年のレポートを参照願おう。関係ないが、プライヤーは「ヤットコ」で、オカメとペアなのは「ヒョットコ」だ。

 

街を抜けて、速度制限が解除になったところで速度を38ノットに変更する。そして奥行臼P.A.で国道243号線の分岐点を横目に見ながら、国道244号線に乗り換えて北上を続けていく。しばらくすると、ヤウシュベツ川にさしかかる。ここはとても水がきれいで、水の匂いも良い。両岸には葦のような植物がたくさん自生しており、様々な動物が生息しているようだ。この辺にはこのような川がいくつかあるが、その中でも特に素晴らしいのがこのヤウシュベツ川だろう。また、マップルにも掲載されていて、そのコメント通りに「水面が鏡のよう」である。

 

ヤウシュベツ橋の上から河口方向を望む

 

じっくりと生態調査などしてみたいが、ツーリングに来ているので、今回は少し雰囲気だけ味わってから先へ進む。この先国道は一旦東へ向いていくが、走古丹(はしりこたん)地区からは海べりへ出て再び北に伸びていく。

 

それにしても今日も寒い。落石などの太平洋側はまだよかったが、オホーツク海側に出た途端に顔がピリピリするではないか。日差しはやわらかいが、海風が冷たすぎる。一応首巻き、ジャケットのインナー+フリース、さらにはタイツを装備しているので、寒さに震えることはないのだが、顔が寒いのはいかんともし難い。気温は推定で18℃というところだろう。

 

ただ、天気は抜群に良く、だんだんと近づいてくる野付半島、その向こうにある国後島もくっきりと見えている。

 

5日目(8月27日)

その2へ続く