2011年8月19日〜8月29日
ナイタイ高原牧場へ続く道
第9日目（8月28日）
１．いよいよ北海道最終日
5時50分に目が覚めた。「今朝も冷え込んだな」と思いながらテントの外へ出てみると、濃い霧が発生している。ただ、空は明るいので天気は崩れていないようだ。気温の上昇と共に視界も良くなってくるだろうと予想するが、霧が晴れるまでは動きをとりづらいので温泉に行くことに。
今日は北海道最終日かぁ〜。もっと走りたかったと未練タラタラであるが、既に2,000km以上走行しているし、礼文島も訪れたので、日程的にはこんなものだよ。また来訪して楽しめばよいではないかと自分に言い聞かす。今度こそは「道東を走り倒そう！」をスローガンに、道東の隅から隅まで楽しみたいものだ。問題は天気だが、こればかりは何ともならない。
早朝の和琴キャンプ場
さて、今日のフライトプランであるが、摩周湖へ行くのは決定として、釧路湿原を見てから釧路へ出て海岸線沿いを行くか、はたまた弟子屈から西へ向かいオンネトーから足寄、ナイタイ高原と飛ぶか。釧路湿原のコースを採用すれば、歩いたりする時間が長くなると思われるので、他の場所へ行くことは難しいだろう。一方、オンネトーコースならば、ジンギスカンの大阪屋、絶景のナイタイ高原と楽しむべきスポットも多い。
ということで冒頭に述べた通り、道東は次回に走り倒すことにして、今回は後者を選択することに。時間が余れば昨年のように富良野へ行けばよかろう。そう考えて表に出ると、「キャンプ場に住んでいる」と思われる人から「温泉に行きましたか」と声をかけられた。「今から行くところですよ」と返答して、温泉へ向かう。
その和琴温泉だが、さっき地図で確認したところ、一旦入口の道路へ出て、湖畔の散策道経由で数百メートルの場所にあるようだ。霧に煙った屈斜路湖畔を歩いたていくと、あったあった。一応脱衣所の小屋も建っている。そして、その温泉から湖を少し隔てた所にもテントが並んでいる。ああ、思い出した。あれが和琴半島キャンプ場だ。地面が砂で、水際にテントを張った17年前の記憶が甦る。なんだ、こっちにテントを張る方がよかったじゃないか。これもまた次回の宿題だ。最近は渡道の度に宿題が増えていく気がする。
和琴半島キャンプ場
（17年前は写真中央付近にテントを張った気がする・・・）
早速服を脱いで、先客に挨拶をしてからお湯の温度を確かめる。相互リンクいただいているローホー氏主宰の「放浪のページ」によると、相当に湯温が高い旨記載があったので注意して手を入れてみたが、実に適温だった。これは、既に入浴されている地元の方々が、温度を調節して下さっていたものと思われた。感謝。
ところでこの温泉だが全くの露天風呂で、お湯はバスクリンが入っているような水色、湯船の底は細かい砂利が入っている。当然ながら開放感100％で朝から良い気分だ。ただ残念なことは、海藻みたいなものが多々見られたことだ。なるべくこれが無い場所を選んで腰を下ろす。
温泉を楽しんでいると、普通に地元の人が犬の散歩などで通り過ぎていく。ちょっと恥ずかしいが、これはいつもの朝なのだろう。腰を揉みほぐしながら、他の入浴者の話に耳を傾ける。内容はやはり、景気が悪いということであったのだが、驚いたのは「子供の就職先は自衛隊が一番だ」と言っていたことだ。別に当人が希望するならば選択肢の一つだろうが、子供に勧めるかということならば躊躇してしまうだろう。北海道の就業事情がそこまで厳しいということだろうか。
いい加減に体が温まり、目が覚めてきた。そろそろ上ろうか、おっとその前に、写真を撮影しておきたい。もちろん入浴している方々の許可も頂きました。それどころか、「モデル料は高いぞ」と冗談まで返してくれるというおまけ付であった。
和琴温泉にて
霧も晴れつつあるのでテントに戻り撤収の準備をするが、この霧でフライシートがベタベタだ。また、内側も地面からの湿気でかなり濡れている。まずは雑巾で表面を、そしてその後は裏面も拭き、隣のテーブルに干しておく。幸いにも霧日差しが強くなってきたので、30分もあれば乾くだろう。それにしても縫い目の目止めが剥がれてきている。帰宅したら補修しなくてはならない。いっそ「モンベル」の「クロノスドーム�況拭廚貿磴ぢ悗┐燭い�、今年は難しいか。
フライシートを干しつつコーヒーを沸かし、朝の常食と化したカロリーメイトをかじる。すると、そこへ管理人がやってきた。挨拶をしてキャンプ場の料金を払おうとすると、「後で受付で」と言って見回りを続けていた。商売をする気はあまりないようだ。
概ねフライシートとインナーテントを乾かすことができた。やはり、テントはしっかりと乾燥させておかないと気になってしまうし、傷みも進行する。
8時には荷物がまとまり、出発準備が整ったので管理棟へ出向く。しかし、鍵がかかっているし、中には人もいない。やはり商売をする気は無いようだ。仕方ないのでしばらく待っていると、「ごめんなさぁ〜い」とさきほどの管理人のおばちゃんがやってきた。これですっきりと後を濁さずに和琴を出発できる。こういうことはきっちりとしておきたいものだ。
今日も快晴で、最終日にふさわしい絶好のツーリング日和だ。気温的もちょっと暑さを感じる程度で申し分ない。まずは国道243号線へ出て、屈斜路湖沿いに走行していく。おや、17年前はここを歩いて、三香温泉へ行ったのだろうかな。はっきりと覚えてはいないが、なんか見覚えのある風景だ。
次に道道52号線へ乗り継いで、通りすがりに他のキャンプ場の様子も見てみる。さすがにこの湖の周辺は「キャンプのメッカ」と言っても過言ではないので、多くのテントが立っている。また、この辺りのキャンプ場は、温泉が隣接しているのでとても使い勝手が良い。またキャンプをしたい場所である。
しばらく走って湖に別れを告げて、川湯温泉の市街地へ入っていく。2009年にはここに泊まった際、温泉は最高だったのだがライハが最悪だった。あんな所に泊まるくらいだったら、目の前の屈斜路湖にテントを張るべきだった。まさに判断ミスである。
ちょっと苦い想い出に悩まされつつ、硫黄山の前を通過する。ここはその名の通り、本当に硫黄臭い。そのやや黄色がかった山を、朝早くから登っている人も見える。酸欠にならないか心配だ。
そして、突き当りの国道391号線を右折し、すぐに左折して道道52号へスイッチして、森の中を標高を上げながら進んでいく。そして道は次第に屈曲してきて、木もなくなり展望が開けてくる。ところで、今日も念のためにコルセットを装着していて、コーナリングで無理が無いようにややゆったりしたペース走行をするつもりだ。しかし、コーナーは確実なアクションで効率良く曲がっていきたい。
こうして、屈斜路湖に残る霧が雲海になっているところを見て、「ソバ焼酎ゥ〜雲海〜ぃ」と歌いながら摩周湖第三展望台へ到着する。
摩周第三展望台から見る屈斜路湖の雲海
（中央は硫黄山）
もちろん、今日も摩周湖はばっちりと見えてますよ。今回は4度目の訪問だが、あとの3回も綺麗な湖面を確認できている。基本的に晴れている時にしか来ないので当たり前だが、これで世の中を上手く渡っていけない理由を仕立て上げることができる。いや、それは単なる当方の努力不足だ。人（湖）のせいにしてはならない。
それにしても今年の摩周湖には虫が多い。ちょっと立ち止まっているだけで、あっという間に囲まれてしまう。どうやらこれは「ブヨ」のようだ。刺されたら嫌なので、さっさと退散する羽目になってしまった。本当はもっとゆっくりと眺めたかったんだけどね。また、第三展望台は湖の西側に位置するので、午前中は完全な逆光線であり、写真も上手く撮ることができず残念だ。やはり、こう考えると、摩周湖を見るなら「裏摩周展望台」がベストと言えよう。
切れ目がガタガタですが、美しい摩周湖
摩周第三展望台でひどい目に遭ったのでだが、道道52号線で弟子屈の街へ下りれば、そんなことはすっかりと忘れてしまった。ここからは国道243号線、241号線と繋いで機首を磁方位270で双湖台を目指す。本当はこの243号線、別名パイロット国道を090で行き根室を目指したいところだったが、時間的に帰ることができなりそうなので今回はパスする。
こうして、泣く泣く阿寒横断道路を西進していく。途中、廃港になった弟子屈飛行場を通過するが、滑走路には花が植えられていた。なんだか寂しい光景だが、維持・管理できないものを造ったのだからこれで良いのだ。
ところで、この道は「取り締まりに注意」と複数のガイドブックに書かれているので、速度を37ノット維持として路端に注意する。ところで、北海道の速度違反取り締まりでは、本州で一般的に行われている「ネズミ取り」とは少し様子が違うようだ。というのも、通常の速度取締では、路側帯にカラーコーンと計測器を置き、監視が椅子に座っている。ところが、北海道ではパトカーそのものに速度計測器が搭載されていて、道路脇に横向きに停車し、その前を通過する車両の速度を測る方式が主流になっているらしい。つまり、一般的なものには付きものである、カラーコーンを置く必要が無くなるのだ。取り締まりの目印が無いのは全くもって恐怖だ。とにかく、パトカーが横向きに止まっている所を見たら、取り締まりということになる。
幸いにもこのツーリングでは、2、3回しかこの方式の取り締まりを見かけていないし、すべて頭と鼻が見えていたので、難なくきりぬけることができた。誰もが免許は大事にしたいと思っているだろうから、ちょっとした知恵と勇気を持つことで検挙されることを防ぎたい。因みに偉そうに言っている管理人だが、2009年に厚床の市街地で、普通の計測器にやられている。もちろんカラーコーンも置いてあったので、不注意としか言いようがない。これさえなければゴールド免許だったのにぃ〜。
阿寒横断道路にて、牧草ロールを発見
くやしひが悔やんでも始まらないので、気を取り直して双湖台へ向けてワインディングを上っていく。とても良い道だが、自衛隊の行群車両が連なっている。追い越しをかけたいところだが、ここははみ出し禁止の区間なので後方からついていく。これならば取り締まりに遭っても大丈夫だが、非常に退屈で疲れてしまった。
なんとか双湖台に到着した。やれやれ。ここは2009年以来の来訪だ。あの時はとても寒く、霧に煙るペンケトーを半分凍えながら見た。それに比べて、今日は暑いくらいで霧も全くない。果たして、北海道の形をした「ペンケトー」が緑の森の中にくっきりと浮かび上がっていた。
北海道の形に見えるかな？
また、今日は前述のように気候が良いので、地元の老人ホームの入居者と思われる方々も訪れていた。こんな日に屋内にいるのはもったいないと思うのは万人共通だと思うし、それを察した職員さんの、実に粋な計らいに入居者の方も満足であろう。もっとも、職員のご苦労は大変なものに違いない。当方もあと30年もすればお世話になるのかもしれないな、いや、そうならないように自分で生きる術を身につけ、体力を維持していかなくては。
双湖台を後にして、このまま西進していく。この先には阿寒湖、そしてお気に入りのオンネトーがある。阿寒湖はどうも賑やか過ぎて、いつも立ち寄る気になれない。一方、オンネトーはそれほど混み合っておらず、毎度ながらの美しい景色に出会うことができるので、こちらの方が好みだ。例えるならば、開陽台よりも多和平、900牧場というところだろうか。
そう考えながら国道241号線を磁方位270、速度は30ノットで下っていく。前述のように臀部に痛みを感じるので、なるべく効率よく荷重をシートに乗せていくよう、股関節の内旋、外旋を意識しつつ、荷物の重さも利用しながらリアタイヤの旋回力を使って緩やかなコーナリングを心がける。ただ、意識し過ぎたせいか、路面が彫られた、凸凹のついている中央線に乗り上げて対向車線にはみ出しそうになってしまった。何やっとんネンと突っ込みが入りそうだ。
こうして峠を下ってくると、阿寒湖や雌阿寒岳が見えてきた。今日は今朝提出のプラン通りに241号線を選択するも、分岐している、釧路湿原への国道240号線も気になる。
ぐっとこらえて、このまま道なりに足寄峠を越えて林間の道を走っていき、左折して道道664号線にルート切り替える。さて、この道をしばらく行くとやけに硫黄臭くなってくる。ここが野中温泉で、阿寒岳を見ながら一度入浴してみたいと考えるのだが、なかなか機会に恵まれない。いずれはこの先のオンネトー国設キャンプ場に泊り、この温泉にも入ってみたいものだ。また宿題が残ってしまった。
こうして、片側１〜1.5車線の道をしばらく行くと湖が見える。これがオンネトーだ。前回2009年の訪問時は奥の展望デッキまで行かなかったので、今日は17年振りにさらに奥まで入っていこう。
バイクを駐車場に止めて、展望デッキへでてみる。日差しを受けてキラキラと光る水面、そしてそこを少し外れるとエメラルドブルー、それも濃淡がついていて微妙に色が違う。また、青い空に阿寒富士と雌阿寒岳が立ち、湖面にもその姿を映している。またまた息をのんでしまったが、なぜかふと、以前ここで地元のツアー客と遭遇して、実家の隣り町の人と話をしたことを思い出した。世の中って狭いなと感じた記憶がある。
オンネトーからと阿寒富士、雌阿寒岳を望む
通常ならば景色を楽しんだ後、元来た道を戻るところだが、きょうはこのまま道道664号線で螺湾まで出ることにする。途中5�劼離澄璽箸�あるが、以前アウトライダー誌の記事で「トライアンフ ボンネビル」で通ったと記載があったので、TDMなら楽勝で通過できると思っていた。
そのままオンネトーの南側を回り込むように走っていくと、地図通りにオンネトー国設キャンプ場からダート路が始まる。楽勝かと思っていたが、意外にも荒れている。おいおい、いきなり下り坂に結構深い溝ができているじゃあないか。慎重に段差を乗り越えていく。しかも、なんでこういう忙しい時に限って対向車が来るかなぁ。微力でリアブレーキペダルを踏み、さらにエンジンブレーキで速度を落として、4輪車にさっさと通過してもらう。この後も何カ所か、雨水が激しく流れて路面を削りとった跡を、低めのギアと滑らかなクラッチ操作で乗り越える。こういう時に限定解除の試験課題であった、「波状路」の技術が役に立つのだな。不本意ながらも、北海道ツーリング中に思い知ることとなった。
ただ、ダート路の後半は路面が安定してくるが、油断はできない。また路面が荒れていると危ないので、低めのギアで20ノット維持とする。やれやれ、ちょっと嫌な汗をかいてしまったよ。
ダートが終わると、2車線の綺麗で幅も広い快走路に変わる。この落差はなんだと思いながらも、ほぼ貸切状態の道道をかっ飛ばしていく。
こうして、螺湾川沿いに超楽勝の舗装路を走行していくと、巨大なフキが自生、いや、「採取禁止」と看板が出ているので、栽培されているだろう場所を発見した。これが有名な螺湾ブキだ。因みに、三国峠周辺にも同じようなものがあったが、こちらは看板が無かったところから自生するものと判断できる。
途中、「螺湾ブキ鑑賞圃場」と看板が出ている場所があり、停止する。フキを鑑賞できる場所のようだが、既に時期は終わっているようで、背の高いものがあまり残っていない。周辺で写真を撮る場所は無いかと探していたところ、比較的大きなものが残っている場所を発見した。
螺湾ブキ鑑賞圃付近にて
（背が高いものは2m以上あるか？）
これと関連するが、今回の渡道ではセイコマの惣菜「フキの煮物」を何回か食べたのだが、「やけに太いなぁ」と思っていた。なるほど、これが元の形か。一本あれば一人前とれるだろう。納得だ。関係ないが、当方の実家がある市では、フキとタマネギを特産品としている。社会の時間に近くの農家へ栽培の状況を見に行ったことがあるが、ビニールハウスでこの半分もないくらいのものを収穫していたように思う。北海道は何でも規模が大きいなと改めて実感した。
螺湾を出発し15分程で足寄に到着した。時刻も12時ということで、当然のように大阪屋食堂へ向かう。と言っても、まだ3回目なんだけど。時間が良いだけに混み合っているだろうなと想像していたが、当方以外に大人3名の一団が食事をしていたのみだった。
運が良かったと思いつつ、ジンギスカンを注文する。北海道にはジンギスカンの店が多々存在するが、ここのものはとても旨い。ツーリングライダーならばファンの方も多いのではないだろうか。
おばさんから話しかけられたので、「昨年はライダーハウスも利用させてもらった」と返答する。そして、今年は泊まっていかないのかと尋ねられたので、「残念ながら今夜のフェリーで帰るんで、またの機会に」と答えた。すると、
「もう私も80歳になったから、いつまでやれるかわからない」
となぜか弱気の発言をされた。そしていつもならば、「そろそろ混ぜてよ」とジンギスカンの焼きに注文が出るのだが、今年は何も言われないし、すりおろしにんにくも出てこない。こちらから、「あの〜にんにくありますか」と催促をした程だ。そう言えば、なんだかおばさんの覇気が無くなったように感じるが、何かあったのだろうか。
おなじみのジンギスカン
肉も焼けたのでいただきます。んー旨い、が、なんかちょっと塩辛くないか？気のせいだろうか。そんな疑問も感じつつも、おいしいことには変わりなかったので、しっかりと完食した。ところで、もう一組のお客さんだが、当方が流浪のライダーということで、いろいろと話しかけてこられた。また、ノンアルコールビールもごちそうになってしまった。どうもありがとうございます。
すっかりと満腹になったので、会計をして店をでる。おばさんも玄関まで見送りに出てきてくれた。「また機会があったらきますので、それまで店を営んでいてくださいね」と励ましてから店を後にする。今年が最後にならなきゃいいが・・・。
大阪屋も近い将来閉店するかもしれないなぁ、と漠然とした寂しさを感じつつ、足寄の住宅地を通りナイタイ高原を目指す。住宅地を通るのはなぜか、松山千春の家を見るためである。今年は「みどり湯」で3晩も過ごしたので、「大空と大地の中で」をすっかりと覚えることができた。そう考えると、今回の訪問は今までよりも感慨深いものがある。帰宅後も何度となくこの歌を聴いて思うのだが、テレビなどで横柄な口をきく松山だが、中身は結構繊細な人なのかもしれない。因みに、当方は彼の歌で「恋」なんかも好きだぁ。
松山千春の家にて
昨年からだろうか、「千春の家」と書かれた手作りの看板が市街地のそこらじゅうに出されているので、迷わず千春の家に到着することができるようになった。因みに、2009年はちょっと探して、やっと見つけたという感じだったかな。
さて、時刻も14時近くになろうとしているので、先を急ごう。国道242号線でちょっと南下し、241号線に乗り換えて引き続き磁方位270を維持する。この上士幌と足寄の間も当方の好きな区間だ。白樺や杉の防風林を垂直に横切る瞬間、長々と横一列に見えていた木が一本に見える。いかにも自分が大空間を移動しているということを感じるのだが、そんなことを思ったことはありませんか。
5日目に通った上士幌の市街地を通り、道道337、806号線に乗り換えてナイタイ高原を目指す。杉林を抜けて、トウモロコシ畑、牧草地を通り、快走を続ける。もう8月が終わろうとしているが、ここはまだ、ライダーがたくさん出入りしているようだ。ピースを出しながらの走行となる。
そして高原へ続く道を、大きなカーブを描きながら高度を上げていく。お、右に見えるのは、ブレンディコーヒーのCMで用いられたツリーハウスだ。ここにあったのか。なぁ〜んだ。知らなかったよ。ちょっと寄っていくか。
安全上の都合であまり近づくことはできないが、2006年CMに登場したこの家は、「少年の頃に夢見た」というようなことが言われるが、当方は高い所や狭い所には恐怖を覚えるので、正直上りたいとは思わない。もちろん、夢にも見ることもないであります。
ツリーハウス
ここからは一気に頂上まで駆け上がる。冒頭の写真がその様子だが、いつもながらこの景色を見ると気分が高揚してくる。そして、ついついアクセルも開け気味になってしまうが、こんなところでこそ自制心が問われるのだろう。冷静になって35ノット維持で走行していく。
こうして高原の頂上へ到着する。月並みな言い方であるが、いつ見てもここは最高の場所だ。写真にしてみると味気ないが、こうして目を閉じて思い出してみると、牧場の匂い、初秋の風が景色の記憶と共に甦ってくる。さらに、よーく見てみると、足寄へ向かう国道らしき直線道路も視界に入ってくる。十勝平野一望はダテではない。
ナイタイ高原から南東方向を望む
今日は暑いし、大阪屋でジンギスカンを食べたせいだろう。喉が渇いたし、甘いものも食べたい。ソフトクリームでもと思うが、これでは水分が足らない。そこで、「タピオカドリンク」という札が目に入ったので、タピオカってなんだろうと知らないまま注文した。よくよく考えれば、0円マップにコーヒーのサービスクーポンがあるので、ソフトクリームとそのコーヒーにしておけばよかった。
注文をしてレジの横で立って待っていたが、なかなか出てこない。そりゃそうだ、キャッサバのでんぷんを糊化させて作るのだから手間もかかろう。結局近くの椅子に座って待つこと10分。やっと「タピオカお待ちどうさまでした」と呼ばれた。
タピオカドリンク
（ミルクティー味）
紅茶の底に沈んでいるツブツブがタピオカで、図太いストローで吸うのか。紅茶は普通だが、タピオカというやつには味が無い。そうか、この食感を楽しむというわけか。別にまずいことはないが、やはりソフトクリームにしておけばよかった。さらに、ちょっとタピオカが多いぞ、残すのも嫌なので最後まで完食した。
この後はレストハウスから芝の方へ出て、景色を見ながらボーっとする。今日は日曜だし、天気も良いのでかなりにぎわっている。特に女子高生と思われる一団が黄色い声を上げてはしゃいでいる。それにしても若いって羨ましい。もっとも、ここにきてはしゃいでいるのは若い娘だけではなく、ここにいるおじさんも同様である。
また、ちょっと離れた所では愛を囁きあう恋人が数組、長椅子に座っている。女性はこういう場所で口説かれると落ちやすいのだろうか。確かに、気分が大きくなってO.K.が出るかもしれませんね。
高原の風に吹かれていろいろと考えていたら、いつの間にかだいぶ陽が傾いている。おお、まずい。そろそろ苫小牧へ向かわないと帰れなくなってしまう。とても名残惜しいが、そろそろナイタイ高原を出発しなければならない。ああ、残念。
さて、苫小牧まではいろんなルートがあるが、まずは元来た道道806号線を下り、上士幌市街地で道道337号線に乗り換えて西へ向かう。この道は「上士幌航空公園」の前を通っていて、音更川を渡ると道は南向きとなる。このまま道なりに南下して、突き当たる国道274号線でさらに瓜幕方向へ走る。地図上で見れば近くに見えるが、何せ北海道のマップルは縮尺が200,000分の1であるから、騙されてはならない。延々と畑の中を続く道を40ノットで走行する。そして、道の駅 うりまく周辺で進行方向を変えながらも、同国道を追従し、鹿追方向へ南下する。この辺りでは、縮尺の違いをわかっていても騙された気になるくらい、道のりが長く感じた。
道道85号線と国道274号線の交差点から鹿追方面を見る
（この反対方向には扇ガ原展望台があるので、次回はこちらも行ってみたい）
写真のような道をダラダラと走り、鹿追で左折して道道133号線、そしてさらに右折して道道75号線で十勝川を渡り、屈足の街を通過する。さらにそこからダラダラと10�卍�走ると、国道38号線にぶつかり、新得の街へ到着した。
ダラダラと続く道でちょっと疲れてしまったので、新得の駅前で一旦休息とする。さて、ここからのルートだが、このまま国道274を追いかけて、十勝清水までから日勝峠を超えて日高に出るか、狩勝峠を通り、富良野へ寄るか。いいや、これは明らかに日没に間に合わない。そこで、その中間を採り、道道1117、136号線と繋いでトマム、占冠を通るルートに決定した。時間的にも日没までは1時間30分程度残っているので、ちょうど良いのではなかろうか。さらに、トマムと占冠の間に「泣く木」というものがあるようだ。ここに立ち寄ることにして、プラン承認。
早速国道38号線を富良野方面へ向けて走り出すと、佐幌川沿いの広大なソバ畑が目に入ってきた。だいぶ陽が傾いてきているので、例によって長い影が畑の上に出現してきた。今日も会えたね、俺の影。そう思いながら徐々に狩勝峠に向けて高度を上げていく。ところで、この国道にはキツネなどのイラスト入りの「X合目」と書かれた看板が出ていて、峠に対してどのくらい上ってきたかがわかるようになっている。こういうものはあまり見かけないのであるが、峠の店へ寄らせるための工夫だろうかと思われた。
ちょっと急いでいるので狩勝峠は通過して、根室本線の落合駅の手前から道道1117号線へ入る。既に山の稜線に太陽がかかっているので、場所によっては暗く感じる。いよいよ日没近しだが、交通量は皆無なので思いっきり飛ばしていく。すると、前方に4、5台のバイクからなる集団を発見した。先頭はカタナが引っ張っているようなのだが、手を挙げて思い切ってパスしていく。
トマムのスキーリゾートや、地図には載っていない道東自動車道の高架橋を見ながら国道をぶっ飛ばしていく。おっとっと、「泣く木」を通り過ぎてしまった。そんなに焦る必要もなかろうに。やや自嘲気味に引き返していく。
「泣く木」に到着したのだが、こんな山奥のスポットでも看板が出ている。それによれば、この木はニレの木で、道路工事の時に切り倒そうとしたのだが、何やら泣いているような音がするので切らずにおいたとのことだ。そして、後付けで、恋物語をつくったらしい。
夕焼け時の「泣く木」
看板の説明を読んで、裏側に回るとのこぎりを当てたと思われる、切り跡が残っている。確かに、切ろうとした苦労が見てとれた。
切り跡
どうやら元々は、もう一本幹があったようだが、そいつは切り倒されてしまったようだ。しかし、この本体の幹は切られることを拒否したということか。よほど硬い木なのだろう。
植物に感情があるのかどうかわからないが、切り跡を撫でつつ、痛かったのだろうかと想像してその場を離れた。
さて、今回の渡道で、立ち寄る観光スポットはここが最後となった。後は苫小牧東港へ向けて走るのみだ。フェリーの車両甲板に乗るまでは気を引き締めて行こう。
道道136号線を磁方位240で進み、占冠から国道237号線で180へ変針する。薄明りの残る国道を、周りの4輪車について35ノット程で進んでいく。因みにこの道は「沙流川」に平行して通っている。また、平取町は沙流郡平取町だ。「さる」といえば「猿」と連想するので、その響きがおもしろくて独りでウケてていた。
その平取では、3日目に通った道道80号線の分岐点を通過する。時間が3日目に戻ればよいのになぁと思うが、所詮は仮定法過去である。現実を受け止めつつ、さらに南下していく。さて、腹が減ってきたので途中の富川で飯を食べることにしよう。そうだ、2009年に利用したライダーハウス「西陣」は寿司屋で、「シシャモ寿司」なるものを名物としていたな。これは都合が良い。さらに、TDMも残燃料が8ポンドと満タンと4分の1程になっている。街でついでに給油もしていこう。
やれやれ、やっと街の明かりが見えてきた。人間は暗い所では不安になってしまうのだな。おまけに腹も空いているとくれば、尚のことだ。「西陣」の駐車場にTDMを止めて、店内に入る。すると大将が出てきて「いらっしゃい」と迎えてくれた。
カウンターに座り、メニューを見る。食べるものはししゃもと決めていたので、「ししゃも御膳 1,500円」をお願いする。前回はライハのみを利用したので気が付かなかったが、神経質な程に清潔な店だ。また、ネタの冷蔵庫の中もホッキ貝やししゃも、その他のものもきっちりと整理されて並べてある。ここの大将は相当に几帳面な人のようだ。因みにここの大将もライダーだそうだ。
その大将の、これまた几帳面な仕事を見ながら、「2009年にライダーハウスに泊った」旨を告げると、最近はさらにライダーが少なくなったと話してくれた。
西陣の店舗前にて ししゃも御膳 1,500円
おまちかねのシシャモ御膳の登場だ。おお〜〜、旨そう。まずはにぎり寿司からいただきます。この、何と言おうか、キスのような白身なのだが、味はとても濃いし、脂がのっている。鯛よりも旨いというと言い過ぎだろうか。そして天ぷらであるが、こちらも同様に白身でありながら、しっかりとししゃもの味がする。大将の話によると、ししゃもはこの辺りでしか水揚げされないらしく、富川産のものは基本的に市場には出回らないそうだ。つまり、通常目にするものは、ほぼ100％冷凍の輸入物ということになる。ええ〜、そんなに貴重な物なんですか？また、今からが旬ということであった。
貴重なシシャモをじっくりと噛んで味わいながら食べていると、大将が「2009年の7月17日〜18日にお越しになってますね」とライハの記録を調べてくれた。やはり、几帳面な方だ。
「またお寄りください」と大将に見送られ、店を出る。ちょっと寒くなり、霧も出てきたので気合を入れていこう。まずは燃料を入れたいので、国道235号線のバイパスではなく、旧道をheading300で苫小牧直行を要求する。ところが、今日は日曜日ということで、また時間も19時を過ぎてしまっているせいもあろう、ガソリンスタンドはほとんど閉まっている。この先の鵡川でも同様だった。仕方ないので苫小牧の市街地へ出ることにするが、新日本海フェリーの港は市街地からは10�勸幣綸譴卜イ譴討い襦�つまり、一度港を通り過ぎて10�勸幣總�り、ガソリンを入れて再び10�勸幣紂▲悒燭垢襪髪�復30�匐瓩�は余分に走ることになる。その分長く北海道を走るのは嬉しいが、夜で霧も出ているとなると話は別だ。いっそのこと空タンクでフェリーに乗り、敦賀の市街地でと思うが、仮にスタンドが開いていないとえらいことになるので、やはり苫小牧で給油することに決心した。「やれることはやれる時に」がツーリングの鉄則である。
こうして苫小牧東港を一旦やり過ごして沼ノ端まで走り、突き当りを左折してしばらく行った所にある、道道259号線沿いのスタンドに飛び込んだ。給油量は18.5Lで、前回の給油から512kmも走行しているので、27.6km/Lということになる。今日はちょっと飛ばしたのでこんなもんかな。ついでに雑巾を借りて、ヘルメットやマシンのライトを拭いておく。毎度ながらこの虫の数は半端ではない。
そして、再び今来た道を45ノットで235号線バイパスを戻り、周りに何もない港に20時30分頃到着した。これで北海道の走行は無事に終了だ。お疲れさんでした。
フェリーの切符は既に購入してあるし、船内用の荷物も和琴を出る時に分けてある。あとは土産の手配をするのみだ。昨年は早々に帯広で購入したが、今回はまたまたフェリーターミナルで「白い恋人」を購入・発走した。また、「フルビット免許達成のお祝い」として、先日フード付きタオルを下さった禎乃ちゃんには、別口のでかいものを用意した。
この後、乗船開始まで2時間程あったので、今回が最後の乗船となりそうなフェリー「すいせん」の船首を見にいく。それにしてもでかい船だ。よくこんなもの造ったもんだよなぁ、日本の造船技術って世界でも最高峰なんだろうな。しかし、ここのところの円高でまた競争力が落ちているだろうから、この先どうなるのだろうか。そんなことと言ってはいけないが、技術力のある産業が衰退することはどうも納得がいかない。
フェリー「すいせん」の船首
この船は、往路に利用したフェリー「はまなす」に比べて旧式のものだ。製造は同じIHIであるが、「はまなす」は操舵板を備えておらず、スクリューが付いているポッド自体が向きを変えるようになっている。また、動力源も「すいせん」の純ディーゼル機関に対し、「はまなす」はディーゼルエンジンと電力推進装置のハイブリッド方式だ。
このご時世、環境問題もさることながら、原油価格の高騰で燃料費が経営を圧迫しているようだ。そこで、来年の8月からは舞鶴〜小樽航路と同形式の船に機材変更がなされることになったとか。確かに、舞鶴航路の方が乗り心地も良いし、振動も少ない。明らかに敦賀航路より快適だ。さらに燃料費も3分の2程度に抑えられるのだから、「すずらん」、「すいせん」の退役はやむを得ない。
ところで、敦賀航路は今日で6回目の利用だが、そのうちで「すいせん」に乗船するのは5回目だと思う。そう考えると随分と世話になった船だ。売却先は未定だが、3番目のオーナーが潜在的にいることは確実らしいので、解体は避けられるようだ。
時代の流れに哀愁を感じつつ、自分のマシンの様子を見に行くと、霧でシートがベタベタになっている。これでは尻がぬれてしまうので、雑巾を出してシートを拭いていると、ドラスタ400に乗る50歳くらいの、「たけし似」の方がやってきて、興奮気味に話しかけてきた。というのも、彼は今回が初の北海道ツーリングだったらしく、午後から函館まで往復してきて、今の今まで走っていたとのことだ。それはお疲れ様でした。それにしても荷物が少ないと思ったが、ライハの存在は渡道後に知ったそうで、宿泊はすべてビジネスホテルを予約しておいたとのこと。そして、その少ない荷物を、自転車用の荷物紐でくくりつけてある。飛ばされなくてよかったなぁと思うが、危ない目に遭わなかったのだろうか。
こうして11時に乗船開始となるのだが、帰りの便はかなりスペースに余裕があるようで、車両甲板ではマシンの間はそれほど詰めなくてもよかった。それはそうと、駐車場でTRXを見たのだが、オーナーがどんな人かと気になっていた。その正体がここでわかったのだが、なんと変態、いや背の高いモデルのような女性だった。一見、何の脈絡も無いこのタケシ氏とモデル氏、明日の下船時にちょっとした事故を起こしてしまうとは、この時点では誰も知る由はなかった。
当然当方もわかるはずもなく、いつものように、フロントで寝台番号の指定を受け、荷物を置いて風呂へ直行する。そういえば、往路の船の方が風呂も広かったし、サウナもあったっけ。やはり新造船への機材更新は適切な流れと言えよう。仮に来年8月に渡道するならば、その新造船に乗れるということか。これは楽しみだ。
風呂から上がると、船は既に苫小牧東港を出航していた。ああ、今日もたくさん走って疲れたなぁ。ロビーで騒いでいる人達を横目に寝台に戻り、そのままあっという間に寝てしまった。
本日の走行 500km