2011年8月19日〜8月29日
これから乗船するフェリー「ボレアース宗谷」
朝6時に起床し、離島へ行く準備を整える。まずは朝食ということで、セイコマでおにぎりなどを購入する。ついでに用も足しておこう。天気も上々だ。
みどり湯へ戻り、一階で食事を済ませる。そして、自分の寝床へ上がりゴソゴソと持ち物を点検していると、上の段で寝ていた人が起きたところだったので挨拶をする。彼らは先月中旬に自転車で鹿児島の佐多岬を出発し、昨日宗谷岬に到着したという大学生の3人組だ。昨晩はあまり話をできなかったのであるが、離島行きのフェリーに乗るまで少し時間があるので話を聞く。
そもそも、彼らは「大学時代にしかできないであろう、何かでかいことをやろう」と集まった仲間で、鹿児島を出た後は基本的に日本海伝いに北上してきたそうだ。だだ、何故か奈良だけは寄ったそうで、しかも、そこで「鹿に地図を食われる」という事件に巻き込まれてしまったと言う。その際、北海道のページが一部鹿の胃袋に入ってしまったそうだ。しかし、今となってはこの地図は一生の宝物だろう。また、昨晩は「ああ、終わったな」程度にしか感じていなかったそうだが、一晩明けて、少しずつ実感が湧いてきて、充実感や達成感に浸っていると。そりゃそうだろう。バイクに乗って同じことをしても十分に大変なことなのに、自転車で縦断を達成したのだから。地図だけでなく、彼らにとってはこの旅の成功が一生の宝物だと思う。若いって本当に素晴らしい。
彼らに祝福の言葉を述べ、今日も連泊する旨、おばさんに置き手紙を残して稚内港へ向かう。昨日は市街地を往来したので、大きな道はだいたい理解できており、港までは10分程で到着した。そして、無料の駐輪スペースにTDMを止めて、合羽や地図、ヘルメット、グローブなどを持ってターミナルの建物へ入る。
稚内港 国内線フェリーターミナルにて
（TDMにはここで留守番をお願いする）
今日はTDMはフェリーターミナルへ置いていき、礼文島のレンタルバイク屋で原付を借りる予定だ。そこにはヘルメットや合羽も用意されているそうだが、やはりここは自分のものを使いたいので、これらは持参する。本当はTDMごと渡りゆっくりしたいのだが、残りの日程で道東も楽しみたいたいので、今回は稚内ベースで日帰りとする。もちろん、金銭的問題もある。TDMには「今度連れていくからゴメン」と声をかけておく。
稚内〜香深間の乗船券を往復で4,600円で購入し、礼文島への搭乗口に並ぶ。窓からはこれから乗るフェリーが見えるのだが、なかなか新しい機材のようだ。帰宅後に調べてみると、2003年にフェリー会社に引き渡されたものらしく、まだ就航して10年経っていない。結構な新造船ではないか。エンジンはダイハツ製の船舶用ディーゼルエンジンを2基搭載しているようで、通常出力は約6,400馬力、速力は約20ノットということだ。余談だが、馬力だけで考えると、飛行機ならば70人乗りのDHC-8‐400型機のエンジン出力である5,000馬力よりも少し多い。フェリー同士で比較すれば、当方が往路に乗船してきた新日本海フェリーの「はまなす」は、17,000馬力の内燃機関を2基、24,000馬力の電動機関を１基搭載しているということだから、小さい部類になるのか？揺れなければよいが・・・。
ところで、フェリーに搭乗する際は90分前に乗船手続きをすることが多いが、この離島行きのものはほんの数分前でも問題ないらしい。乗船者名簿も存在しないようで、切符の販売枚数で人数を把握しているだけだろう。もし、万が一事故等で船体を放棄するようなことになったら、誰が行方不明かなどという詳細な情報は発表されないことになろう。
そんなことを思いながら船に乗り、ヘルメットとザックで客室に自分のスペースを確保する。意外にも混み合っているが、客室が広いので十分な広さを得ることができた。
そうこうしていると出航時刻になり、あっという間に稚内港が離れていく。今日は幸いにも凪であり、また天気も良いなと思っていたのだが、沖へ出るにつれて雲が厚くなってきた。そしてついに雨が降り始める。また、遠くの方では別の雲が雨を降らしている様子が見え、時々稲妻が見えた。合羽を持参してきて正解だとは思ったが、あまり嬉しくない正解だ。ただ、雲はそれほど大きくなく、散発的に雨雲が発生しているようだった。
天気を心配して後方のオープンデッキにいると、みどり湯で同宿だった成田市在住のおじさんと出会う。この方はバイク乗りでも自転車乗りでもない。なんと飛行機旅行者であった。というのも、ご子息がANAのパイロットで、航空券が安く手に入るとのこと。今日は利尻島観光をしてから飛行機で千歳へ、そしてさらに成田まで飛ぶということだった。なんとも羨ましい限りだ。
さて、当方は飛行機も好きなので、ご子息の飛行時間やら技能証明の限定事項やらを尋ねたり、旅客機の性能について話し合ったりと楽しい時間を過ごすことができた。そして、その間にだんだんと天気が回復してきて、利尻島の鴛泊港到着時には雨が上がった。
船内の様子 後方デッキにて管理人
（なかなか綺麗で広い） （左側に雨雲が見える）
こうして、飛行機氏は下船され、手を振りながらターミナルビルへ入って行かれた。一方、当方は礼文島の天気を気にしながら空を眺める。だんだんと明るくなってきているので大丈夫だとは思うが、島の上空には雨雲が垂れ込めている。
そんな心配をよそに、フェリーは礼文島の香深港へ向けて出港する。少々寒くなってきたので客室へ戻り、横になって地図を眺める。ちょっと眠いのでウトウトしようと思ったが、どうもワクワクしてしまってそれどころではない。結局そのまま礼文島が近くなってきてしまった。
それはそうと、礼文島には色々な意味で有名なYHである「桃岩荘」がある。ここは17年前の1994年に初めて北海道に来た時から既に有名であったし、その様子を伝える内容も全く変わっていない。宿泊するつもりは無くとも興味があったので、他のライダーが書かれたリポートを渡道前に読んできた。そしてそこには、
「岸壁で踊りながら送り、迎えをする」
という旨のことが書かれていた。ということは、香深港へ入港する際にはそれを見ることができるということか。対岸の火事ではないが、ちょっと見てみたい。そこで入港前から下船準備を整えて、サイドデッキにて様子を伺う。しかし、また雨が降ってきたので、「さすがに雨降りじゃあそんなことはやらんだろうなぁ。ヤクルトの応援みたいに傘でも振っていれば別だが」と半ばあきらめていた。しかし、船がいよいよ接岸という時になって、なにやら端の方で大声を出して旗を振っている人がいる。もしかして、あの人がそうか？？
「＊＠＋￥＞＜＝−？？」
何を言っているのかわからないが、どうやら歓迎しているようだ。（後日この内容が「おかえりなさーい」ではないかとご教授いただきました）。しかし、その騒いでいる人はあまり楽しそうに見えない。というか、むしろ苦痛の表情を浮かべている。もし、この人が心底楽しそうにしているのならばさらに興味が湧いてくるところだが、苦痛でやっているのならその意味がよくわからない。また、みどり湯のおばさんが「どっぷりとはまらないようにして、話のタネにでもすればよい」と言っていたのだが、つまりはそういうことかと思った。
岸壁で旗を振る人
（後方の青い車には桃岩荘と書かれている）
そして船が接岸しタラップで下船すると、その人が「桃岩荘」と書かれた旗を広げて、これまた苦痛の表情で立っていた。何か目つきが怪しいんですが・・・。
こっそりと彼の前を通過して、ターミナルビルをから外へ出てみる。すると土産物屋が軒を連ねている。それにしても参った。この雨では走りたくない。そこで考えたのだが、今朝は始動が早かったので、既に腹が減ってきている。よって早めの昼食を摂り、天気の回復を見てから行動することに。ところが、時刻はまだ10時30分だ。看板を見てみると、この辺りの食事処は11時開店となっているらしい。そこでレンタルバイク屋に行ったり、親戚の土産をこの最果ての島から送る手配をして時間を潰すことにした。
まずは折り畳み傘を購入する。今までロングツーリングでは所持していなかったのだが、これを機会に購入した、やはり傘はツーリングには必須の品である。
傘をさして港の入口にあるレンタルバイク屋へ向かう。正確にはレンタカーでバイクも扱っている店だ。中に入り、料金などを確認する。だいたい島は全長が35�勸未如�3時間程度あれば一通り見てこれるとのこと。そうすると料金は2,500円だが、時間が足りなければ一時間につき1,000円の追加料金で延長も可能とのことだ。なるほど、みどり湯でオーナーに聞いた通りだ。
「じゃあ昼飯を食べてから再び来店する」と告げて、港の反対側へ行く。こちらには「うすゆきの湯」という温泉がある。ここは島内を見て回ってから入ることにしよう。ああ、まだ11時まではまだ少々時間がある。そこで、香深漁協直営の「海鮮館」という店に入り、親戚の家に送るお土産を物色する。一昨年はインディアン・サマーカンパニーからカニを、昨年は富良野からメロンを送ったので、今年は礼文島から海産物を送ることにした。
ところで、この親戚の家は父親の実家で、管理人が分家である当家の代表として顔を出している。親父は今や孫がやってくる立場にあるし、兄貴は嫁さんの実家（といっても前述の親戚の家から歩いて30秒）へ行くことになっている。ということで、次男坊の当方が本家を訪れるという事態が起こっているわけだ。これは当方にとって好都合である。というのも、おばさんのおせちは最高に旨く、特に「昆布巻き」については世界一と言っても嘘にはならない。普段はおばさんを褒めることのない（ただ言えないだけ）おじさんに、「うちの昆布巻きは世界一だ」と言わしめるほどだ。
ということで、利尻ではないが、昆布をメインにイカの一夜干し、ホッケのチャンチャン焼きセットなどを送る。利尻の昆布も礼文の昆布も同じ海域で獲っているのだから、そんなに大差はないと思うがどうだろうか。ちょうど豊後水道で漁獲される関サバや関アジを、大分県ではなく愛媛県で水揚げするようなものではなかろうかと推測する。確かどこかにそのようなことが書かれていたと思う。
そして、少しでも安くしたかったので「端数をまけてくれないか」と頼んだところ、あっけなく断られたのでそのままの値段でお願いした。これで来年の正月は、さらに旨い昆布巻きが食べられることだろう。
土産物を手配していたら11時を過ぎた。いよいよお目当てのホッケのチャンチャン焼きが食べられるぞ。因みに、この料理は当ページと相互リンクをお願いしている、ローホーさん主宰の「放浪のページ」で紹介されていたもので、一度味わってみたいと思っていたのだ。
同じ漁協直営の「海鮮処 かふか」という店に行くことにする。というのも、土産を買った「海鮮館」のおばさんが店外に出ていたので、もう一軒の「ちどり」には入りづらかったのだよ。
香深漁港の通り
（左が海鮮処 かふか）
店に入り、すぐ右にある、食堂へつながる階段を上っていくと、「いらいしゃいませ」と元気な声で迎えられた。そして「焼き物を食べる予定ですか」と尋ねられたので、「はい」と答えると、隣にあるいろりへ案内された。そして奥の窓に近い席に座り、メニューを見る。当然ここは「ほっけのチャンチャン焼き定食 殻ウニ付」1,500円を注文する。店員の話によると、生のホッケはなかなか食べられないとのこと。ホッケのほとんどは干物にされるそうだ。そう言えば、確かに干物でないホッケは見たことがない。これは楽しみだ。
こうして、目の前の焼き網にホッケがのせられて、はらわたがあった場所に味噌とネギが盛られる。早くもヨダレが出てきてしまうよ。そして店員は、「ウニは生が良いですか、それとも焼きますか」と聞いてきた。何が違うかを尋ね返すと、「焼いた方が甘みが出ておいしいよ」とのことだったので、焼きウニにしてもらうことに。
店員はその後、素早くウニをさばいたり、ご飯と味噌汁を用意している。一方、当方は窓の外を見てみる。すると天気が急速に回復してきており、いつの間にやら晴れ間が出てきて利尻富士も見えだした。今日はツイてるなぁ。そう思っていると、目の前の魚がプツプツと焼けはじめて、味噌の焦げる匂いがしてきた。すると、店員がトゲを伸び縮みさせているウニを焼き網にのせて、ホッケの身と味噌をこてで混ぜ始め、それをご飯にのせてくれた。
それではいただきます。んー、今まで食べたホッケとはまるで別物だ。生と干物ではこんなに違うものだろうか。ホッケと言うと独特の匂いがあるが、生のものはそれが無いばかりか、うま味が濃い。それと少し焦げた味噌とネギの香りと味が混ざり合って、何とも言えない。こんな旨いものはそうそう食べられないぞ。そう思ってご飯とチャンチャン焼きをガツガツとかき込み、よ〜く噛んで味わう。すると、ウニが焼けたようで、「こちらもどうぞ」と前に出された。どれどれ、おお、今まで殻つきのウニは何回か食べたことがあるが、焼いたものはトロトロ感はなくなるものの、店員の言う通り甘みが増している。生と焼きは甲乙つけ難い。
ホッケのチャンチャン焼き定食 殻ウニ付
チャンチャン焼き定食をペロリと完食し、これで終わりたと思ったら皮も一口大に切って出してくれた。これがまた香ばしくて旨い。骨の髄までではないが、皮までバッチリと味わわせてもらいました。ごちそうさまです。
昼食に満足し、軽い足どりでレンタルバイク屋へ向かう。天気はすっかりと回復して暑くなってきた。少々汗をかきながら店に到着すると、もう一人同じ年くらいの女性がバイクを借りる手続きをしていた。
いつものように関わらないようにして、免許を提示したり書類を記入する。ところで、今回は50�佞離曠鵐瀬肇ゥ妊�にしたが、125�佞�PCXも用意されていた。また、当然だが4輪車も数台置いてある。そして、体力に自信のある方が借りるのだろう、自転車も借りられるようだ。
「バイクの取り扱いは大丈夫ですか」と店員に聞かれて、「多分大丈夫です」と答えてみたが、最近のスクーターは鍵穴のところにフタができるようになっていたり、イモビライザーが搭載されていたりする。ちょっと不安だったが、制御の仕組みを思い出してゆっくり目に操作をすれば問題なくエンジンがかかり、アイドリングを始めた。そしてもう一人の女性はヘルメットも借りていたのだが、いかにも安物の半ヘルだった。そしてもちろん素手である。やはり「メットとグローブは持参した方が良い」、という判断は正しかったようだ。
右のの415号車を借りて、イザ出発！
こうして礼文島ツーリングは開始された。まずは最北のスコトン岬を目指して、道道40号線で海岸線沿いを北上する。この道は割合整備されていて、一部住宅街以外は片側2車線の広い道路だ。こんな広い道が必要かとも思ったが、ツアー客を乗せた大型観光バスがガンガン、そしてなぜかダンプカーもガンガンと対向車線を走っていく。おっと、後ろにもダンプカーがついている。道を譲らなきゃ。
最初はおっかなびっくりだったが、ちょっと島の道路にも慣れてきたのでマシンの性能をチェックする。公称緒元表によると、重量が79�圓悩嚢盻侘呂�3.8馬力かぁ。どうりで、アクセルを全開にしても27ノット弱しか出ないわけだ。ちょっと厳しいですなぁ。足回りもほとんどバネのみで、気持ち減衰力があるのかという程度だ。幸いにも腰に響くことはないので、そこについては合格だ。それどころか、当方の原点は原付のAC08型（NS-50F）だったので、「たまにはこうやってゆっくりと景色を見ながら走行することも悪くないな」と昔を思い出したりした。さて、ちょっと喉が渇いたので休息しよう。
赤岩地区にて、北方向を望む
静かな所かと思えば、バスやダンプがガンガンと走っていく。岸壁の工事なんかを行っているのだろうか。そんなことを想像しながら水分補給をし、再び走行を開始する。相変わらずの全開25ノットで走行する。
ところで、礼文島というと、昨日の稚内童夢温泉で見た観光ポスターには「花の浮島」と書かれていた。しかし、それは初夏から盛夏にかけてのことなのだろう。右手の丘にはあまり花は咲いていない。しかし、時期を選べばきっと素晴らしい風景に出会えるのだろう。おっと、対向車線には自分のマシンで上陸したライダー達が、ピースサインを出して嬉しそうに走行していく。
さて、地図に従って。道道を離れて「金田ノ岬」という冗談のような名前の岬へ機首を向ける（本名は「かねだのみさき」）。そして、閉鎖になっている礼文空港へ上る道を15ノットくらいで走行していくと、ちょっとした広場へ出てきたので止まってみる。
一見するとただの草原だが、よく見ると所々に野草が花が咲いている。ひとまずは写真を撮っておいて、帰宅後に名前を調べることにする。そしてその結果であるが、「フタナミソウ」、「タカネグンバイ」、「ハクサンシャジン」、「タカネナデシコ」等であったようだ。これらの花が同時にこの草原一面に咲いたとすれば、それは見ごたえのある景色となることだろう。
空港近くの丘にて
この後は金田ノ岬へ行くが、おりしも観光バスが到着したばかりで、人口密度がヤケに高い。これでは何のために礼文島へ来たのかわからないので、ひとまずは船泊湾の東側にあるスコトン岬を確認して、さっさと道道507号線で走り出す。
金田ノ岬から見たスコトン岬とトド島
すこしずつ雲がとれてきた海沿いの道を走行していく。途中にそして途中にある船泊地区で、「最北のたい焼き屋」という看板の店を見かけるも営業はしていないようだ。それどころか、集落そのものに人がいるのかどうかも疑わしい。漁師さんは朝が早いので、今は寝ている時間なのだろうか。
船泊地区にて
集落を過ぎるとまた海沿いの道になり、だんだんとスコトン岬が近くなってくる。因みに「スコトン」は「須古頓」と漢字で表記するようだ。ところで、礼文島は礼文岳を中心とした、基本構造は岩ばかりの島で、本当に海沿いのわずかな平地に道が通っているという状況だ。場所によっては海岸を走っているような感覚の場所も多々ある。それにしてもこの原付、走らんですなぁ。
岬への最終関門である坂道を上ると、一気に周りが開けた。ここが礼文島の、いや日本の最果ての地である。実際の緯度は宗谷岬の方が高い位置にあるようだが、最果ての地という雰囲気はこちらの方が数段上だろう。雲の切れ間から見える空も、なんだかいつもより青く見えるぞ。そう思いながら駐車場に原付を止めて、売店を横目に突端まで歩いていく。もちろんサハリンもうっすらと見えている。
サハリン方向へ機首を向けるトゥデイ号
目の前には島が見えるが、これはトド島という名前で、基本無人島だそうだ。そしてそのすぐ先はロシアとの国境だ。
スコトン岬の突端広場とトド島
今まで北海道へは6回訪れているが、今回はパスポート無しで来ることができる最果ての地へ立ったという気分だ。充足感と同時に、ちょっと冷静な自分が呆れている。確かに、このような場所まで来る人はそうそういないだろう。このリポートにお付き合いしていただいている方も、場所は違えどこういう気持ちになったことがあると思う。
スコトン岬へ立つ
（最北限という表現がうまい）
爽やかな風に当たりながら売店前の広場へ戻り、「アイスナメナメ」この最北限の風景を存分に楽しむ。因みにここでのアイスは「昆布ソフトクリーム」である。昆布ソフトと言っても、昆布の味はしない。ただ、色がそれらしい雰囲気がするという程度のものだ。
昆布ソフト 売店前からの景色
（色がそれらしい程度か？）
もうちょっとスコトン岬にいたいのだが、トゥディは3時間の予定で借りている。4時間に延長してもよいのだが、間延びしそうなので今回は3時間きっちりで行く方針にする。トド島よ、また逢う日までって次はいつかわからないし、最後かもしれない。
スクーターのエンジンを始動して507号線を戻り、九種湖を見ながら道道40号線に乗り換えていく。朝はあまりよく見えなかった利尻富士だが、天候の回復でだいぶ見えるようになってきた。
ところで、当方の場合、礼文島と聞いて連想するものは、スコトン岬と桃岩だ。岬へは到達することができたので、次は桃岩を見に行こう。残り時間が1時間程なので、ちょうど良い。
利尻富士を見ながら晴れた青い空の下、海岸線を走り、香深を通過して屈曲路を上りながら桃岩を目指す。前には遅い乗用車が走っているが、自分も15ノットしか出ないので追い越すことは不可能だ。おとなしく後ろについて走る。途中礼文林道入口の看板があり、行けそうかどうかを確かめてみたが、このマシンでは無理だ。フカフカで砂利が深いので、ちゃんとしたオフ車でなければ通り抜けは難しいだろう。
こうして、トンネルを抜けると眼前には緑色の草原、そこに咲く花々が点々と浮かび上がった景色が広がっている。北の方は完全に花の見ごろは終わっていたものの、南の方は少しは残っているようだ。
さて、桃岩を見るには駐車場から展望台まで、壁みたいな急な坂を歩いて行かなければならない。それも、結構な距離だ。少々迷ったが、ここまで来たのだから意を決して歩き始める。フウフウと呼吸を整えて、一歩ずつ坂道を上っていくと、数人の観光客が野草についてガイドを受けていた。本当ならばこうしてゆっくりと花でも見ていけばよいのだが、貧乏性なのか、なぜか気が急いてしまう。そして振り返れば澄んだ空に利尻富士、沖を行くフェリーが見えた。この景色を見てやる気が出てきたぞ。坂道を展望台まで駆け上がる。
頂上付近はすぐ雲が出てくる
そして現れた巨大な岩、これが桃岩だ。確かに桃の形をしている。特に先端部分がちょっと凸凹になっている所がそれらしい。さらに、苔むしていて、桃の表面の状態をよく表している。この桃岩は、ヘタの部分を下に向けた形だろうか。
また、歩道はさらに下の方へ続いていて、その先にはちょっとした広場がある。あそこに建っているのが有名な桃岩荘かぁ。どうやって建築したのかちょっと不思議な場所だ。お、あの耳が立った岩が猫岩か。なるほど、その名の通りである。
桃岩と猫岩
（遥か下方に桃岩荘が見える）
ちょっとしたハイキングで少々時間を喰ってしまった。そろそろ駐車場へ下りて、香深に戻り原付を返却しよう。行きと違い、帰りはゆっくりと景色を眺めながら歩いていく。というか、ここで走っては人の迷惑だし、危険である。
展望台から駐車場を見下ろす
こうして14時30分過ぎに香深に戻り、レンタル屋の隣にあるガソリンスタンドにて満タンにしてから返却する。当方の場合、島内を64km走行して1.5L弱給油したので、1Lで50�勸幣總�れた計算だ。50�佞箸靴討呂△泙衫匹�ない数値だが、それだけ当方が開けていたということだろう。そしてガソリン屋の店員に、「ずいぶんと走りましたねぇ」と驚かれていた。大抵の人は40�勸未靴�走行しないそうだ。
さて、フェリーは16時10分に出航するので、その間温泉に入ってゆっくりするか。再び歩いて漁港の方へまわり、「うすゆきの湯」へ行く。ここは2006年のマップルには掲載が無いので、それ以降にできた施設だろう。見た目にもとても新しい。
早速入湯料600円を支払い、露天風呂に浸かる。ここのお湯はヌルヌル感が強く、温度もよい。そして振り向けば利尻富士が良く見える。昨日、今日と温泉に浸かっているので、臀部の具合も悪くない。ちょっと時間と金がかかるが、礼文島に来てよかった。花の咲く季節ならば申し分ないだろうが、そうでなくとも空は青いし、空気もうまい。旨い食べ物に温泉、これぞ当方が目指すツーリングの究極形である。
何回か湯船と休息用の椅子を往復して、加熱と冷却を繰り返してお湯と景色を楽しんだ後、食堂兼休憩スペースで利尻島を見ながら横になる。朝は大雨でどうなることかと思ったが、終わってみれば超がつく快晴だ。今日はツイてるな。
温泉施設を16時前に出て、フェリー乗り場で船を待つ。切符は買ってあるので気楽だ。そうすると船もタイミング良く入港してきたので、礼文島上陸の人達と入れ違いで乗船する。その後は客室に場所を確保してから岸壁側のサイドデッキに出る。
船は岸壁を離れて、島がどんどんと遠くなっていく。ありがとう礼文島、また来る日まで。心の中でそうつぶやきながら再会を誓う。こうして、外海に出るまで島を眺めてから客室に戻った。
今日は朝が早かったし、いろいろと慌ただしかったので疲れたな。そう思いながら客室で横になって休息していたら、いつの間にか寝てしまっていた。
気が付いたら、フェリーは利尻島の鴛泊港を出港していて、後方デッキからは夕日に照らされた利尻富士がドド〜ンと見える。おお、ここまでハッキリした利尻島を間近で見たのは初めてだ。しかし、利尻富士は近くでみると案外ボコボコとしている。やはり、遠くから眺める方が美しいようだ。バラにはトゲがあるとよく言われるが、遠くで眺める方が良い場合もあるのだな。おっと、港の防波堤の所に見えるのは「ペシ岬」だ。こんな背が高いとは知らなかった。一度あのてっぺんに上り、「ペシ」とケツをたたく格好で写真を撮ってみたい。また、地図で見てみると「ポン山」なんて山もあるらしい。
利尻島を出港するフェリーから見た利尻富士 ペシ岬
礼文〜利尻の間の昼寝により、かなり体力が回復して元気が出てきた。船首の向こうには稚内、右後方には沈みゆく太陽。快晴の秋空の海上に落ちていく夕日を最後まで見送ることができた。普段は意識しないが、夕日ってきれいだ。また明日も晴れますように。
また明日お会いしましょう
すっかりと日が暮れた18時50分、定刻に稚内港に到着した。TDMに帰ってきた挨拶代わりにイグニションスイッチオン。おや、ちょっとタンクが汚れている。どうやら稚内も雨が降ったようだ。雨ざらしで悪かったね。
さて、みどり湯に戻る前にちょっと寄っていく場所がある。かねてから見たかった夜の北防波堤ドームだ。港を出て、右折して数百メートルで到着する。おお、夜はライトアップされていると0円マップに書かれていたが、なかなか、昼間の顔とはだいぶ違う。例えが悪くて申し訳ないが、いつも夜のエアロビクスを指導しているインストラクターに、昼間にお会いすることがある。夜と昼ではだいぶ見え方が違うものだ。いや、ドームに関してはそれ以上に違うように思う。これも稚内に滞在してこその収穫だろう。
夜の北防波堤ドーム
夜の北防波堤ドームに感心した後、保険の意味合いで、「ツルハドラッグ」でコルセットを購入しておく。こんなものを買わねばならなくなった自分の体が恨めしい。こういうことが無いようにと思って普段から鍛えているに。多分出発前に4輪やバックアップ機材の整備もまとめて行ったので腰に負担がかかり、疲労が蓄積されたのだろう。情けないが気をつけないといけない。
夜の街を抜け、ついでにセイコマに寄って晩飯を調達してからみどり湯に戻る。「戻りました」と中に入っていくと、おばさんから「ああ、そういえば連泊だったね」とちょっと間があってから返事があった。そして、その場で宿泊料1,000円を支払っておく。
荷物を置いてから、晩飯にする。今日も果ジュレのオレンジ＆マンゴー、100円のサラダやフキの煮物などを購入した。昨日も記載したが、セイコマは1人分を売っているので嬉しい。そして珍しく、主食を「どん兵衛の親子そば」とした。「北のどん兵衛」なんて副題が付いているので、ついつい買ってしまった。
今日の晩飯
食事をして、隣のライダーと話をする。なんだかとても疲れているようだが、それもそのはず。今朝苫小牧からオロロンライン経由で稚内入りし、明日は知床、そしてその翌日は小樽に戻るという超強行日程だ。明日以降のことを考えると、今日の疲れも倍増だろう。大丈夫なんだろうか。
また、反対隣のライダーは同じ愛知県の出身で、地元ネタで盛り上がった。彼は当方のアパートから程近い大学の学生であるが、「友人はこのツーリングについて何か言っていた？」というお馴染みの質問に対して、「全く興味無さそうだった」といつもの回答をされた。因みに友人でバイクに乗る人もいないそうだ。やっぱり、若い人が乗らないとバイク人口は維持できないんだよな。
そしてその向こう、日本一周のばあさんであるが、今日はあまりチヤホヤされないせいか機嫌が悪い。また、我々の話にも入って来られないこともあって静かにしていた。
本日の宿泊者
（写真提供はみどり湯）
こうして21時からは恒例の自己紹介と「大空と大地の中で」を合唱だ。今日は3回目だけあって、一番上手く歌えたのではなかろうか。
ところで、この中に「シャケバイ」をやって、雪が降る前に帰ると自己紹介で話していたライダーがいた。「シャケバイ」とは、川に上ってきた鮭を獲る手伝いや、加工したりする北の秋では定番のアルバイトだ。北海道ではこの他にも「メロンの収穫」、「昆布獲り・干し」、「ニンジンやビートの収穫」などの農作業や漁業のバイトが多々ある。結局、北の大地では一年の内の半年は雪が積もっているので、残りの半年で一年分の仕事をこなさなければならないので、仕事のピーク時は慢性的に人が不足してしまうのだろう。
こうして楽しい、稚内最後の夜は更けていった。
本日の走行 70km