エアロビクスインストラクターが誕生するまで

〜管理人自らが挑戦した、120日間+∞のドキュメント〜

 

第7回講義 (6月17日)

 

7-0 授業前に

 

今日は授業前に師匠からお達しがあった。我々は師匠の養成コース10期生にあたるのだが、どちらかというと、当方を含めてゆったりとされている方々の集まりである。そこで、その行動に対ししびれを切らしたのだろう。「指導者たるインストラクターがのんびり行動していたら、参加者の動機づけは下がる」と。なるほど、確かにその通りである。よくよく思い出してみると、今までレッスンを受けたインストラクターは常に「キビキビ」行動している。レッスン中の水分補給時には空調を触ったり、レッスン後にはイの一番に入り口へ走ったりと蜂のように忙しくしている。

 

7-1 学科

 

7-1-1  ウォームアップの目的

 

運動を行うにあたり、ウォームアップを行うことは絶対に必要である。何故か。これが明文化して説明されることは案外少ない。今回はその役割と意味と題した講義を受けた。

 

まず最初に、運動とは何かを考える。簡単に言うと随意筋を活動させて、体を動かすことだ。広く言えば、人間は日常的に運動をしているのだが、ここで言う運動はフィットネス活動のことであり、スポーツと言ってもよいだろう。これは、筋肉や関節を大きく動かし、普段よりも大きな力を発揮することになる。つまりは、通常の活動よりも筋を大きく伸縮させ、関節を大きく、広い稼動域で動かすことになる。その一例として、我々が今習っている、エアロビクスがある。ということで、ここでは「特異性の法則」に則り、特にエアロビクスに適したウォームアップを学ぶ。

 

まず、普段よりも筋を大きく活動させるには、

 

「筋温を上昇(37〜38℃程度)にし、筋繊維に存在するコラーゲンをゲル状態にする」ことにより、筋繊維の内部抵抗を低減させ、

 

「筋が滑らか伸縮し、かつ速い動きにも対応」することが必要である。

 

さらに、筋を普段よりも大きく伸縮させることができれば、「関節の可動域を普段より大きく確保」することができる。

 

そしてこれにより、「肉離れなどの障害を防止」することが可能になるわけだ。

 

また、心肺機能の面から考察しても、ウォームアップは重要な意義を持っている。筋は体に蓄えられたエネルギーや酸素を基に活動し、老廃物を生成している。呼吸・循環器系統はその供給と回収を担っていることは言うまでもなかろう。いわゆる理科的にいう「呼吸」というやつである。

つまり、呼吸・循環器系のウオームアップは、

 

きたるべき激しい運動に備えるように少しずつ大きく動いて、心配機能が負荷を受けた状態」に慣れてさせていき、

 

上記物質を素早く運搬」できるように準備をし、

 

突然死や酸欠で倒れるといった事態を防止」する目的がある。

 

因みに、ある統計によると、マラソンなどの走運動において、突然死の15%がスタート直後に起こっているそうだ。最近だと、東京マラソンでスタート直後に、お笑い芸人の「松村」が心肺停止に陥った事例がある。もっとも、彼は近くに待機していた看護師により、AEDにて心臓の除細動に成功し、突然死を免れてはいる。

 

7-1-2 ウォームアップの手法

 

これらを踏まえて、エアロビクスにおける「ウォームアップ」を考察する。

 

エアロビクスのレッスンを受けている方ならご存知の事と思うが、最初はややゆっくり目の音楽にのせて、極基本的ステップに加えて腕を屈曲、伸展、分回ししていく。これは、特に「リズミック・リンバリング」と呼ばれていて、小さめに動いて筋温を上げていくことを目的としている。因みに「リンバー」lは英語における単語であり、「linber=make sth elastic」、要するにものを柔軟にするという意味だ。

 

余談だが、バレエのストレッチでもリンバリングという言葉を使用するらしい。、棒に足を乗っけて体を動かすところ等がそれにあたるそうだ。これは、同期のO氏が以前、クラシック・バレエを習っていたということで、教えてもらったことであると追記しておこう。

 

さて、このリズミック・リンバリングのパートでは、リニアプログレッション形式で上肢、下肢の動きを交互に変え、流れよく進めることが重要である。また、音楽も明るく、ノリの良いものを使用することが必要である。最初からクールなものでは気分も盛り上がってこないですからなぁ。

 

概ね筋肉が温まり、柔軟性が上がってきたところで、ストレッチのパートへ移行する。ところで、ひと言でストレッチと言うが、概ね2つの方法があり、さらに運動前のものと運動後のものではやや方法が異なる。

 

1つ目は「ダイナミック・ストレッチ(動的ストレッチ)」である。これは、体を動かしつつ、筋の収縮を意識的に制御して行うものであり、もう一つは「スタティック・ストレッチ(静的ストレッチ)」で、動きを止めて目的の部位を伸張したまま維持するものだ。

 

ウォームアップにおけるストレッチは、どちらかと言うと前者がメインになる。というのも、後者は筋の柔軟性を「高める」ことに適していて、前者はそれを「引き出す」ことに適しているからだ。また、動きながらのストレッチなので、運動に即したストレッチともいえる。

 

ただ、姿勢の変化を可能な限り必要としない順番で、種目のつながりを考えること、立位で行うことができ、へそより下へ頭を下げる必要が無いものを選択するように注意が必要である。

 

対して、スタティク・ストレッチは、筋の柔軟性を高めることができる反面、あまり長く行うと筋肉が緩みすぎ、かえって動きにくくなるだけでなく、心拍数の減少、筋温の低下が起こるので注意が必要だ。このため、ウォームアップのパートで行う場合、8カウント程度と短めに行わなくてはならない。

 

そしてさらに、ウォームアップ中に、参加者や自分の調子を確認し、メインパートで行うちょっと難度の高い動きを見せておくことも重要である。当然事故防止にもなるし、メインパートを進めやすくなるからだ。ギョエー、アップって予想以上に大変なのね。

 

これについてはK師範代もおっしゃっていたのだが、「養成時代にアップはとてもてこずった」そうだ。次々に動きを変えていくのだからそれだけキューを出さなければならないし、プレビューも複雑になる。さらに、各参加者の動きに注意を払い、ぶつからないように促すとか、調子はどうかとかを観察しなくてはならないし、ある意味メインよりも大変だったとか。

 

おいおい、俺大丈夫か???

 

7-1-3 ウォームダウン

 

メインパートを終えたらそこでレッスンが終了するわけではない。激しい運動を終えた後、すぐに動きを止めることは危険である。というのも、心拍数が急に下がると血流量も急減してしまうからだ。だいたい最高心拍数あたりでは、20L/分程度であり、安静時は5L/分程度なのだが、運動後の体は、まだまだエネルギー源や酸素が必要であったり、排出すべき老廃物がどんどん生成されている状態である。この状況下でいきなり血流量が少なくなると、酸欠などの症状を引き起こす可能性があることは容易に想像できよう。

 

そこで徐々に心拍数を落とすために、「積極的休養」という概念を用いたダウンを行う。エアロビクスの現場では、これを「ウォームダウン」と呼ぶ。

 

ところで、積極的休養って何よ。一般的には「動かないこと=休養」と認識されているし、実際動かないことで休養できる場合は多々存在する。ただ、運動後においては、体は上記のような状態なので、「運動しつつも体を休ませていく」ことが必要なわけだ。これが積極的(にからだを動かすことによる)休養である。

 

上記のように負荷を落とした状態でも筋肉を伸縮させると、その筋肉自体がポンプのような役割を果たし、静脈の血流を促進させることができる(筋ポンプ作用/ミルキング・アクション)。これにより、乳酸等の疲労物質の除去を促進することができ、酸素も十分供給されるので、その分解反応が維持される。つまり、血流量が多い状態を保ちつつ休養することは疲労を残さないためにも有効なのである。

 

さて、ウォームダウンの手法であるが、メインパートの最後のコリオを、ブレイクダウンした逆の手順で巻き戻し、簡単な動きにしていくことが基本である。これは面変化をなくし、インパクトや強度を落とすことにより徐々に負荷を減じつつも動き続けることができるという、まさに積極的休養を絵に描いたような手法である。そして最終的には16カウントの極簡単な動きに収束させて、ストレッチへと移行していく。

 

ただし、最近ではグレイプバインやニーアップ、ツイスト、ステップタッチなど簡単な動きをリニアプログレッションで繰り返し、上記方法に代える手法も用いられている。

 

余談であるが、この「積極的休養」の概念は、スポーツだけに留まらない。例えば、家で何もせずに動かないでいた時など、何となく気だるいと感ずることがある。こういう場合はウォーキングなどで軽く動いて、血流量を上げて筋肉に溜まった疲労物質等を回収する手助けをすることにより、案外すっきりすることがある。これも、積極的休養の代表的な例と言えよう。

 

さらに、当方のような座り仕事に従事する人は、背伸びをしたり、肩を回したりして疲労を取り除いている。これも「積極的休養」と言えよう。

 

 7-1-4 ストレッチについての余談

 

上で述べたように、ストレッチは筋の柔軟性向上や関節の稼動域確保が目的である。さて、別に運動を行わない人にもこれが必要であることはご存知だろうか。というのも、加齢に伴い筋はだんだんと柔軟性を失い、拘縮してしまうからだ。こうなると関節の稼動域も狭くなり、関節軟骨に負担がかかり、その磨耗や関節の変形といった障害を引き起こす原因にもなりうる。

 

さらに問題なことは、これら現象により運動を行わなくなると、さらに症状が悪化するという悪循環に陥ってしまうことだ。また、 間違った方法で運動したりすることも障害を起こし、上記事態に拍車をかけることもあるようだ。

 

ところで、ストレッチというが、何をのばすのだろうか。腱か?、靱帯か?骨か?、上記で述べた通り、ストレッチで伸ばす部分は「筋肉」である。腱や靱帯ではない。腱や靱帯が伸びてしまったら「怪我」になってしまう。相撲中継で、「昨日の取り組みで、膝の靱帯が伸びて休場」なんていうアナウンスが放送されることがある。いや、最近だと、「ドーンとぶつかって、後は流れで・・・」の方が印象に残っているという方が多いのかもしれない。

 

因みに腱は筋肉と骨を結合させている部分であり、靱帯は骨と骨をつなぎ、関節を形成している。ただ、指導上の便宜的に「アキレス腱を伸ばす」という表現があるが、正確には「アキレス腱まわりの筋肉を意識して伸ばしましょう」と言うべきだろう。

 

また、運動前にいきなり大きな動きのストレッチを行う方を見かけるが、これもちょっと危ない。筋は温かくなると伸びやすくなるので、少しトレッドミルやエアロバイクなどで運動し、筋温を上げた後にストレッチすると安全であり、かつ効果が高い。エアロビクスで最初に「リズミック・リンバリング」を行うのはこのためで、その後ストレッチに移行していくの前述の通りである。

 

最後にもう一つ、ストレッチは柔軟性を高めるために行うが、筋の柔軟性も高ければよいというわけでもない。例えば、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の回旋筋腱盤であるが、これらは肩甲骨・肩関節を結びつけ、一定の位置に固定する役割がある。もしもこれらの筋肉が柔軟過ぎる動きをした場合、脱臼などを引き起こす可能性が高まる。何事も適度が一番である。

 

関係ないが、元横綱の「千代の富士」は脱臼で有名だが、彼は関節の構造上、骨のはまりが浅いために弱点になっていたそうだ。しかし、上記筋群をトレーニングして、脱臼を克服したとのことだ。

 

ここで我等が師範代へ向けて。何回もすいませんが、当方このネタ好きなので。今や政治家に転身を目論んでいる、「アジャコングアンド戸塚ヨットスクールズ」として、ダンス甲子園に出場していた「山本太郎」氏について、「千代の富士、脱臼(Q)」というネタを披露していたことはご存知でしょうか。内容は大したことなく、「はっけよい、残った、コッキーン(脱臼の音と思われる)、キュ」というだけのものでした。

 

7-1-5 ストレッチの種類と効用

 

ここでストレッチについてまとめてみよう。

 

ダイナミックストレッチ(動的ストレッチ)

 

    ・ 弾みをつけることなく、意識的にゆっくりした動作で行うストレッチである。

    ・ゆっくり、かつ意識的な動作によるので、筋肉が伸張反射を起こすことがない。主運動の中で用いる骨格筋をほぐす効果がある。

    ・主運動で負担が大きいと思われる部位を選択すると効果的である。

    ・主運動のクールダウンに適しており、負担が大きかった骨格筋の疲労回復、柔軟性向上に効果がある。

      ただ、酷使された筋肉は筋紡錘が興奮しており、伸張反射を起こしやすく、かえって筋肉を傷める可能性があるので注意が必要である。

 

スタティックストレッチ(静的ストレッチ)

 

  ・安全性に優れるストレッチングであるが、動いている際に必要な動的な柔軟性は十分ではないので、

   ウォームアップでは、ダイナミックストレッチングと組み合わせるとよい。

  ・胸郭を広くする動きの時は息を吸う、逆の時は吐く、と呼吸と連動して行うとよい。

  ・運動後に柔軟性の向上・疲労の除去のために行う場合は、各ポーズ20〜30秒程度維持する。

   これにより、心拍数の減少、筋温の低下が促される。

  

バリスティックストレッチ

 

反動、弾みをつけながら行う、古くから行われていたストレッチである。これは、反動により筋紡錘が刺激されて、伸張反射により骨格筋が収縮することになるので、結局ストレッチングにならないので、行わない。

 

その他

 

柔軟性、筋力が低下しやすい、緊張筋(抗重力筋等、日常生活において常に緊張している筋肉)や、相働筋(日常生活ではあまり活動しない筋肉)もこの時に動かすとよい。

 

 

7-2 実技

 

休憩を挟んで、今日も実技指導がある。毎回お伝えしているように、上手い人と下手な当方との差は開く一方である。とにかく自分のやれることを広げていくしかなかろう。

 

まずは音に合わせて、基本のステップを踏み、先生からアラインメントについて指導を受ける。当方の場合、コリオについてはともかく、こちらに関してはだんだんと指摘事項が無くなってきた。姿勢は維持できているようだし、自分がリードするのではなく、リードされる側ならばそれなりに大きく動くことができているようだ。また、笑顔も少しずつ決まってきているようである。だって、楽しいんだもんな。しかし、今できることはここまでだ。

 

それはそうと、この前から第二ブロックを作成して、最初に指定された第一ブロックに変化要素を加え(レイヤーをかけて)、2ブロックを回していくということが始まっている。今ならば何とかできることだが、この当時は途中で頭を抱えて止まってしまって終了だ。

 

一応練習はしているのだが、何がどのくらい大切なのか、さっぱりわからない。いや、この時はわからないことすらわかっていなかった。ところがどうだ、他の3名は何とか回しているではないか。これには当方もがっかりというか、悩んでしまうというか・・・。

 

結局のところ、何も考えなくても動くことができるくらいにステップを踏むことができない限りは、この先へは進むことができないようだ。困りましたなぁ。

 

それはそうと、E氏はある日突然、爆発したかの如く上手になった。一体何があったのか。いや、きっとバンバンと練習しているに違いない。彼女を見習わなくてはならないな。

 

 

第8回講義へ続く